山本綾音は振り向いて、来た人が温井澄蓮だと分かると、驚いた。
「どうしてここにいるの?」また私を探しに来たのかしら。
「なぜここにいるかって?あなたを見かけたから入ってきたに決まってるでしょ!」温井澄蓮は怒りを覚えた。今日、友達とショッピングモールに買い物に来ていて、このレストランの前を通りかかった時、大きなガラス窓越しに、山本綾音が男性の手首を掴んでいるのを見かけたのだ。
その光景を見て、温井澄蓮は激怒した。
自分の兄が山本綾音のことで心を痛めているというのに、この女は他の男と食事を楽しんでいるなんて?
「よくもこの男と手を繋いだりできるわね。山本綾音、あなたには良心というものがないの?」温井澄蓮は非難した。
「それは温井さんには関係ないことでしょう」山本綾音は言った。
「関係ないわけないでしょう。私の兄は...」
温井澄蓮の言葉は途中で山本綾音に遮られた。「私とあなたの兄とはもう何の関係もありません。まさか私のお見合いまであなたたちに報告しなければならないとでも?」
「何ですって?」温井澄蓮の表情が一変し、信じられない様子で山本綾音を見つめた。「お見合い?」
「そうよ、それがどうかしたの!」山本綾音は容赦なく言い返した。
温井朝岚と一緒に入ってきた塩浜市の令嬢二人は呆然としていた。彼女たちは澄蓮がこれほど怒るのを見たことがなかった。さらに驚いたのは、この一見普通の女性が澄蓮にこのような口調で話すことができるということだった。
これは温井家の三お嬢様なのに。普段は高慢な令嬢たちでさえ、温井三お嬢様の前では頭を低くするというのに。
この女性は...一体何者なのだろう?
温井澄蓮はテーブルの二人の男性を見て、それから山本綾音と仁藤心春を見て、突然仁藤心春に向かって言った。「あなたもお見合いに来てるの?」
結局、二対二のお見合いという形式は、彼女も知っていた。
「えっ?」仁藤心春は驚いた。
「これじゃ二番目の兄に申し訳が立たないでしょう?二番目の兄はあなたがお見合いに来ていることを知ってるの?もし二番目の兄があなたが浮気してることを知ったら、どうなるか分かってるの?」温井澄蓮は冷笑しながら言った。
そして彼女の心の中では、二人の兄のことを批判していた。普段は賢そうに見えるのに、結果的に二人の女性がここでお見合いをしているなんて!