温井朝岚は静かに山本綾音の姿を見つめていた。
この数日間、彼は毎日ここに来ては、彼女に会いたいという衝動を必死に抑えていた。
彼は自分がどうすべきか分からなかった。
他の複雑な問題は難なく処理できるのに、彼女のことになると途端に戸惑ってしまう!
かつて、澄蓮は言った。「お兄さんは何事も心に留めないから、誰も兄さんの底線が何なのか分からないのよ」と。
しかし今は、彼は彼女を心に留めている。彼女が彼の底線なのだ。
一台の車が山本綾音の前に停まり、しばらくして綾音は車に乗り込んだ。
温井朝岚はようやく影から姿を現し、遠ざかっていく車を寂しげな眼差しで見送った。その車が視界から消えると、彼の体の横に垂れた手がゆっくりと握り締められた……
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山本綾音が帰宅すると、山本お父さんとお母さんは娘を見るなり熱心に気遣った。
「一週間の出張、大変だったでしょう。随分痩せたじゃない」と山本お母さんは娘を心配そうに言った。
「そんなことないよ!」と綾音は答えた。
「女の子が写真スタジオを経営するなんて大変すぎるわ。出張に残業に。私が思うに、スタジオは畳んで、普通の九時五時の仕事を探した方がいいんじゃないかしら」と山本お父さんは言った。
綾音は答えた。「私は写真の仕事をしているの。この業界に九時五時なんてないわ。それに、今スタジオは順調に発展してるのに、なんで畳まなきゃいけないの!」
「まあまあ、娘が帰ってきたばかりなのにそんな話はやめましょう。荷物を置いて、手を洗って、ご飯にしましょう」と山本お母さんは言った。
綾音は自分の部屋に戻り、持ち帰った荷物を整理し始めた。病院でもらった軟膏を取り出すと、温井朝岚の姿が脳裏に浮かんできた。
考えないで、考えないで!
彼女は激しく首を振り、頭の中の彼の姿を必死に振り払おうとした。そして手にした軟膏の包みをベッドサイドの引き出しに押し込んだ!
夕食時、山本お母さんが突然言い出した。「綾音ね、この前ママの友達が男の子を紹介してくれたの。家柄もいいし、テレビ局でディレクターをしているから、あなたとも共通の話題があると思うわ。会ってみない?」
「げほっ、げほげほ…」綾音は口の中の食べ物を飲み込めずに噴き出しそうになった。「ママ、お見合いさせる気?」