温井澄蓮は声を聞いて急いで振り返ると、すらりとした背の高い人影がゆっくりと近づいてきた。温井卿介以外の誰でもなかった。
「お兄様」と温井澄蓮は呼びかけた。
温井卿介はテーブルの近くまで来て、彼の側には渡辺海辰とボディーガード二人が付き添っていた。
彼はテーブルの一同を一瞥し、最後に視線を仁藤心春に固定させた。「お見合いかい?」
とてもシンプルな一言で、声には喜怒の感情も感じられず、まるで何気ない質問のようだったが、なぜか全身が凍りつくような感覚に襲われた。
「違います」と仁藤心春は答えた。
二人の視線が交差し、空気が凝固したかのようだった。
突然、温井卿介は微笑んで、「よろしい」と言った。
そして彼は横にいる渡辺海辰に指示を出した。「店に5分以内で店内を空けるように言ってくれ」