テーブルを囲んでいる人々の中には、大学生の青春時代を過ごしている人が多く、最初は誰も声を出す勇気がなかったものの、すぐに温井朝岚と温井卿介に質問を投げかける人が出てきた。
一般人は、お金持ちの家庭に対して好奇心を持ち、噂話をしたくなる気持ちがあるものだ。
温井朝岚は元々人付き合いが上手で、特に場を盛り上げようと意識すると、それは本当に簡単なことだった。どんな話題でも自然に取り上げ、会話する相手を心地よく感じさせることができた。
温井家の長男の社交の才能を、仁藤心春は実感した。
しかし意外だったのは、温井卿介もアロマサークルのメンバーたちの噂話のような質問に、機嫌よく答えていたことだ。
もし彼らが以前の彼の喧嘩している姿を見ていなければ、おそらく彼を話しやすい人だと思っていただろう。
食事が終わり、皆が解散し、アロマサークルのメンバーたちは木村教授と一緒に大学に戻った。
山本綾音は仁藤心春に尋ねた。「大学に戻る?」
「いいえ、今日見るべきものは見終わったわ」と心春は答えた。
「じゃあ、大学の周りを散策してみない?久しぶりにここに来たしね」と綾音が提案した。
「いいわね」と心春は頷いて同意した。
そこで綾音は温井家の兄弟に向かって言った。「私たちはもう少し散策するけど、あなたたちは...その、お帰りになる?」
「今日は時間があるから、せっかくだから一緒に散策させてもらおうかな」と温井朝岚は優しく綾音を見つめながら言った。
温井卿介も口元を緩めて笑いながら「僕も丁度時間があるよ」と言った。
つまり...四人で散策することになるのか?
綾音と心春は顔を見合わせた。温井家の兄弟と一緒にここを散策するのは、なんだかプレッシャーを感じるけど、今さら断るのも難しい。
結局、心春と綾音が前を歩き、卿介と朝岚が後ろを歩くことになった。
「そういえば、朝岚さんと卿介さんがどうしてあんなにタイミングよくレストランに来たの?」装飾品店を見ている時に、心春は小声で綾音に尋ねた。
店が小さかったため、温井家の兄弟は店の外で待っていた。
「あなたがトイレに行っている時に、朝岚から電話があって、私が住所を教えたの。でも、まさかあんなに早く来るとは思わなかったし、卿介さんと一緒に来るなんて」と綾音は答えた。