彼らが個室から出てくるのを見ると、支配人はすぐに前に出て、「あの小宮教授、先ほどのテーブルの...えっと、お客様が何か落とされたようで、そのテーブルには貴校の先生方がいらっしゃいましたよね?連絡先をご存知ではありませんか?こちらから確認の電話をさせていただきたいのですが」
大学の近くにある店だったため、支配人も慶応大学の先生方を何人か知っていた。
秋山瑛真の後ろにいた小宮教授はこの話を聞いて、先ほどの木村教授のテーブルのことだと気づいた。
小宮教授は慎重に秋山瑛真の様子を窺い、瑛真が何も言わないのを確認してから支配人に、「では、先ほどの方は木村教授ですので、私から声をかけて、誰か落とし物がないか確認してもらいます。もし落とした人がいれば、取りに来てもらうようにします」と言った。
「それでも結構です」と支配人は答えた。
「落とされたものは何ですか?写真を撮らせていただきます」と小宮教授は言った。
支配人は急いでウェイターから匂い袋を受け取り、小宮教授の前に置いて、「これは匂い袋です」と言った。
小宮教授が携帯を取り出して写真を撮ろうとした時、それまで無関心だった秋山瑛真が突然支配人の手から匂い袋を取り上げ、じっくりと観察し、さらに鼻先に近づけて香りを嗅いだ。
そして嗅いだ後、秋山瑛真の顔色が真っ青になった。この匂い袋の香りは、彼がよく知っているものだった!
しかし、この香りは市場には存在しないものだった。
かつて匂い袋の中の香料の香りが薄くなってしまったため、市場で同じ香りを探そうとしたが、どれだけ多くの香り製品を探しても、結局その香りは見つからなかった。
似たような香りの製品があっても、それは決して同じものではなかった!
後に、彼がGGKでアロマ株式会社を買収したのも、この匂い袋が一つの理由だった。
もし坂下倩乃を見つけていなければ、買収したアロマ株式会社に、匂い袋に残っている香料から同じ香りを開発させようとまで考えていた。
あの...彼を安心させてくれる香り。
しかし今、他人が落とした匂い袋から、同じ香りを嗅ぎ取ったのだ。
なぜこんなことが?何年も探し続けても見つからなかった香りが、この匂い袋から嗅ぎ取れるなんて!
「秋山様、どうされましたか?」学校の幹部たちは、秋山瑛真の突然の行動に驚いていた。