「あるわ!」彼女は即答した。「たくさんあるわ!」
当時、アロマサークルのメンバーの何人かが匂い袋をねだってきて、綾音にも作ってあげたし、そうそう、あの山田流真という最低野郎にも作ってあげたことがあった!
秋山瑛真は息を詰まらせた。「誰にあげたんだ?」
「学校の人たちよ」と彼女は答えた。
「学校外の人は?」と彼は尋ねた。
仁藤心春の脳裏に、ジェイの姿が浮かんだ。かつて、彼女はジェイに匂い袋を送ったことがあった。
インターネットで知り合ったジェイは、彼女にとって一種の慰めのような存在だった。自分にも誰かを助けることができる、この世界には自分を必要としてくれる人がいるんだと。
ただ、その後アルバイト中に客の物を壊してしまい、かなりの額の賠償金を支払わなければならなくなり、その間ジェイへの支援ができなくなった。そして賠償金を支払い終わって再び支援しようとした時には、送金用の口座は既に閉鎖されていた!
彼女はジェイが詐欺師だったのかどうか分からなかった。綾音も、ジェイは詐欺師だから、彼女が送金を数ヶ月止めた後に口座を閉鎖したのだと考えていた。
しかし彼女は、ネット上であのような言葉を書いていたジェイは、詐欺師ではないと感じていた。
そしてジェイが口座を閉鎖したのは、彼女が突然送金を中断したことに失望したからなのか、それともジェイの生活が困難から抜け出して、もう支援を必要としなくなったから口座を閉鎖したのか、分からなかった。
とにかく、この数年間、ジェイは彼女の心の中の秘密のような存在だった。
そして、これらのことは当然、秋山瑛真に話す必要はなかった!
「私は匂い袋を売っているわけじゃないから、なぜ学校外の人にあげる必要があるの!」と仁藤心春は言った。
秋山瑛真は、仁藤心春のこの言葉を聞いて、安堵しているのか失望しているのか、自分でも分からなかった。
もし彼女が学校外の人に匂い袋を渡していないのなら、彼女は絶対に……
つまり、彼の恩人は坂下倩乃だ!彼は間違っていなかった!
「よかった!」彼はつぶやいた。まるで自分に言い聞かせるように、匂い袋は仁藤心春ではない、彼の恩人は仁藤心春ではない、本当によかったと。
「何がよかったの?」仁藤心春は呆然と問い返した。