この「お姉さん」という呼びかけに、仁藤心春の心は一気に高鳴った。
悠仁が彼女をお姉さんと呼ぶことは稀で、だからこそ、一回一回の「お姉さん」がより一層貴重に感じられた。
しかし今、悠仁が後部座席に座るように言ってきたということは……
仁藤心春は少し躊躇った。
「どうしたの?お姉さんは私と後ろに座りたくないの?今日はせっかくお姉さんに会えたから、少し話したいことがあるんだけど」と田中悠仁が言った。
「そんなことないわ!」と仁藤心春は慌てて答えた。
「じゃあ、いいんだね」田中悠仁はそう言いながら、仁藤心春の手を引いて後部座席のドアを開けた。
仁藤心春はその状況を見て、温井卿介に申し訳なさそうな目を向けるしかなかった。せっかく悠仁がこう言ってくれたのだから、悠仁を失望させたくなかった。