仁藤心春は試着室のエリアに駆け込んだ。
試着室には、個室が並んでいて、ドアはなく、厚手のカーテンで仕切られていた。心春が見たところ、五つのカーテンが開いていた。つまり、五つの個室で誰かが服を試着しているはずだった。
「綾音!どこにいるの?」彼女は叫んだ。
カーテンは防音性がないため、理論的には彼女の声は中にいる人に簡単に届くはずだった。
しかし、意外なことに、誰も応答しなかった。
「綾音!」心春は声を張り上げ、心の中の不安が広がっていった。
それでも誰も応答しなかった!
心春は一つ一つのカーテンの前に行き、中にいる人に尋ねた。「友達を探しているんですが、どの試着室にいるか分からなくて。返事してもらえませんか?」
試着室から聞こえた声は、どれも山本綾音の声ではなかった。