仁藤心春は試着室のエリアに駆け込んだ。
試着室には、個室が並んでいて、ドアはなく、厚手のカーテンで仕切られていた。心春が見たところ、五つのカーテンが開いていた。つまり、五つの個室で誰かが服を試着しているはずだった。
「綾音!どこにいるの?」彼女は叫んだ。
カーテンは防音性がないため、理論的には彼女の声は中にいる人に簡単に届くはずだった。
しかし、意外なことに、誰も応答しなかった。
「綾音!」心春は声を張り上げ、心の中の不安が広がっていった。
それでも誰も応答しなかった!
心春は一つ一つのカーテンの前に行き、中にいる人に尋ねた。「友達を探しているんですが、どの試着室にいるか分からなくて。返事してもらえませんか?」
試着室から聞こえた声は、どれも山本綾音の声ではなかった。
五つの試着室全てを確認したが、一つもそうではなかった!
心春の心は沈んでいき、不吉な予感が頭をよぎった!
彼女は急いでスタッフを見つけ、店内の監視カメラの映像を確認するよう要求した。
「申し訳ありません、お客様。店内の監視カメラ映像は警察しか閲覧できません。それに、お友達は成人の方ですよね?もしかしたら冗談か、急用ができて連絡なしで出て行ったのかもしれません。まずはご家族に連絡して確認されてはいかがでしょうか」とスタッフは答えた。
心春は焦りに焦った。綾音はそんな性格ではない!
きっと何かあったに違いない。そうでなければ、綾音が携帯の電源を切って、姿を消すはずがない!
しかし、綾音が行方不明になってまだ24時間も経っていないし、成人でもあるため、警察は恐らく受理してくれないだろう!
心春は突然、以前木村教授の孫が穴に落ちた時、温井卿介が人脈を使って皆が工事現場に入って捜索できるようにしてくれたことを思い出した。今なら……心春は急いで温井卿介に電話をかけ、状況を簡単に説明した。
「綾音が私に一言も言わずに出て行くなんてありえない。何かあったんじゃないかと心配で。でも今、店の監視カメラは見られないの。卿介、なんとか店の監視カメラを見られるようにしてもらえない?」
心春の声は焦りに満ちていた。
「分かった、それは私が処理する。店で待っていてくれ」と温井卿介は言った。