一時的な離脱

温井おじいさまが亡くなったという知らせを聞いた時、仁藤心春はしばらく呆然としていた。

病院での最後の面会が、本当に最期の別れになるとは思わなかった。

おじいさまは死ぬ前、彼女に温井卿介から離れてほしいと願っていたが、彼が亡くなるまで、彼女はまだ離れることができていなかった。

温井卿介はおじいさまの訃報を受けた後、電話を切ってから長い間黙り込んでいた。そして、やっと仁藤心春の方を向いて言った。「お姉さん、おじいさまの葬儀の準備をしなければならないので、しばらくは帰って来られないと思います。お姉さんが何か必要なものがあれば、使用人に頼んでください。ただし、一つだけ条件があります。お姉さんはここから出てはいけません!」

「私をずっとこの別荘に閉じ込めておくつもり?」心春は呟くように言った。

「ええ」彼は手を伸ばして彼女の頬に触れ、まるで最愛の人であるかのように優しい仕草で、「私は手放したくないんです。再会した初めての夜、お姉さんは私に責任を取ると、死ぬまでと約束してくれたじゃないですか?」

心春は口の中が苦くなるのを感じた。

その後の数日間、温井家と温井おじいさまの葬儀に関する情報は、心春はニュースメディアからしか知ることができなかった。

温井卿介は数日間帰って来ず、広大な別荘は彼女にとって少し寂しく感じられた。

温井卿介は別荘から出ることを禁じたが、幸い携帯電話は取り上げられなかった。

この数日間、彼女は毎日綾音と電話で話していた。

しかし今日電話をかけても、綾音は全く電話に出なかった。

心春は山本お母さんに電話をかけると、綾音は朝病院に行って、昼に帰ったと告げられた。

「今は家にいるはずよ」山本お母さんは言った。「心春ちゃん、綾音はここ数日気分が優れないの。私にも何と声をかけていいか分からなくて。あなたは彼女の友達だから、お母さんに代わって彼女を励ましてあげてくれない?」

「分かりました」心春は通話を終え、心の中に不安を感じながら、今日携帯で見た温井家に関するニュースを思い出した。

その中の一つは、温井朝岚と高橋家の令嬢が一緒に写っている写真で、多くの人が温井家と高橋家の縁談が近いのではないかと推測していた。

結局のところ、おじいさまが亡くなった今、温井家の権力争いが表面化したと言える。