訪ねてきた

仁藤心春は車を運転して山本家に着き、長い間インターホンを鳴らしてようやくドアが開いた。

山本綾音の腫れた目を見て、彼女は驚いた。「泣いていたの?」

山本綾音は苦笑いを浮かべた。「うん、おかしいでしょう。もう彼のことで泣かないと思っていたのに…やっぱり私、感傷的になってしまったみたい」

仁藤心春は友人の今の様子を見て、胸が痛んだ。「あなたも…温井朝岚のニュースを見たの?」

「見るつもりはなかったんだけど、事務所のスタッフから電話があって、このニュースについて話してくれて。彼が高橋家のお嬢様と結婚するなら、それはそれでいいことだと思う。後で記者が撮った写真を見たけど、高橋家のお嬢様はとても綺麗で、二人は…」

「お似合い」という言葉が喉に詰まって、どうしても出てこなかった。

そして、やっと止まっていた涙が、また溢れそうになった。

仁藤心春は山本綾音を抱きしめた。この時、彼女は何を言えばいいのか分からず、ただこうして友人を抱きしめることで慰めを表すしかなかった。

しばらくして、山本綾音はゆっくりと仁藤心春の腕から身を離した。「大丈夫、私は平気だから。一度寝れば、何もかも忘れられるわ」

山本綾音は体を横に向けて、仁藤心春を家の中に入れた。「そういえば、どうして突然来たの?まさか温井朝岚のニュースを見たかどうか確認しに来たわけじゃないでしょう」

「電話したけど出なかったから、心配になって来たの」と仁藤心春は言った。

「多分気づかなかったんだと思う、取り損ねちゃって」と山本綾音は言った。それは、さっきまで彼女の心がそのニュースに囚われていて、頭の中が真っ白で、時間が経つのも分からないほどだったから。

もし心春のインターホンの音がなければ、きっと今でもその苦しみの中にいただろう。

「何か飲む?お茶とブルーベリージュースしかないけど…」山本綾音の声が突然途切れ、苦笑いを浮かべた。「知ってる?このブルーベリージュース、彼が買ってくれたの。たくさん買って、ここに置いてくれて。私がこのジュースが好きだって知ってたから、飲み切る前に新しいのを買ってくれて。これからもずっと買ってあげるって言ってくれたの」

でも…彼女と朝岚の間には、もう「これから」はない。