もう誤解させないで

山本綾音の目に涙が浮かんできた。今の温井朝岚は、もう彼女を愛していた男ではないことを、心の中ではわかっていたのに。

でも今この瞬間、彼の近さに、まるで昔の朝岚が戻ってきたような錯覚を覚えてしまう。

運転手はすでに車を寄せてきており、温井朝岚が山本綾音を抱きかかえて来るのを見て、急いで車から降り、ドアを開けた。

温井朝岚は山本綾音を抱きかかえて車に乗り込み、運転手に指示を出した。「近くの病院へ」

車はすぐに病院に到着し、温井朝岚は山本綾音を救急外来に連れて行った。医師の診察の結果、山本綾音は軽度の脳震盪があり、一日の経過観察が必要で、頭部の傷は5針縫うことになった。

「家に用事があるので、経過観察は必要ないと思います。何か異常があれば、すぐに病院に戻ってきます」と山本綾音は言った。