その言葉を口にする時、彼の心臓は激しく鼓動していた。
彼女は恐らく知らないだろう。彼がどれほどの勇気を振り絞って、この言葉を言い出したのかを。
「分かってるわ」仁藤心春は呟くように言った。「私は汚いとは思わない。それはあなたが秋山おじさまと生き延びるために、できる限りの手段を尽くしただけよ。もし私があの状況に置かれていたら、もっと酷いことをしていたかもしれない」
彼女はそう言いながら、手を伸ばして、そっと相手の手を握った。
温もりが、彼女の手から、彼の冷たい手に伝わっていった。
「さっき温井卿介の前で言った言葉は、全て本心よ。そもそも私の母が引き起こした悪果なのだから。でなければ、あなたはこんな目に遭うことはなかったはず。あの時、私があなたの側にいられていたらよかったのに」彼女は小声で呟いた。