仁藤心春の視線は秋山瑛真に向けられ、唇がゆっくりと開いた。「瑛真、私はあなたを愛していません」
彼女のこの答えは、秋山瑛真に対してだけでなく、温井卿介への回答でもあった。
秋山瑛真の顔色が一層青ざめていく。「でも、君は確かに言ったじゃないか。僕のことを好きになろうと努力すると。もし僕を守るためだというのなら、大丈夫だよ。僕はもう昔のような何もできない子供じゃない。君と展志ちゃんを守れる。たとえ塩浜市を離れても、僕たちは……」
「瑛真!」仁藤心春は彼の言葉を遮った。「あなたに私と展志ちゃんを守る力があるかどうかに関係なく、私はこんな形で塩浜市を離れたくないの。私はあなたを愛していない、これは嘘じゃないわ。だからあなたに何かしてもらう必要もない。以前約束したことは、私が約束を破ったということにして」
秋山瑛真の体が震え、黒い瞳には悲しみと諦めきれない思いが満ちていた。「どうして一度も試そうとしてくれないんだ。確かに前は、僕に心を動かされていたはずじゃないか?」
この数日間の付き合い、遊園地での出来事、彼には分かっていた。彼女が少しずつ心を開き、彼を受け入れ始めていたことを。
しかし今、彼女は突然彼を遠ざけてしまった。
「私があなたを愛していないからよ」仁藤心春は率直に言った。「もし愛していたなら、あなたと一緒にいる方法を考えるはず。卿介のそばにいることなんて承諾しないわ。でも残念ながら、私はあなたを愛していない。だからもう試そうとも思わない。疲れたの。ただ平穏に展志ちゃんを育てていきたいだけ」
理性は今この残酷な言葉を口にすることが最も正しい選択だと告げていた。
しかし、実際にその言葉を口にし、目の前の男性が苦痛に満ちた表情を見せた時、彼女の心臓も痛みを感じた。
「愛していない……愛していない……」秋山瑛真は繰り返し呟いた。「なぜだ、なぜ希望を与えておいて、絶望を与えるんだ?それなら最初から僕のことを好きにならないと言ってくれればよかったのに。確かに好きになると約束してくれたのに、どうしてこんなに簡単に約束を破れるんだ、どうして!」
彼が彼女の前に駆け寄ろうとしたが、温井卿介の部下に阻まれた!
「ごめんなさい」仁藤心春は呟いた。今の彼女には、それしか言えなかった。