かつて、彼女は自分がいつか悠仁に本当の姉として認めてもらえると思っていた。
この世で、本当に血のつながった人は彼だけだったから!
でも後になって、彼女はようやく分かった。ある事は、ただ自分の感傷に過ぎず、ある人は、永遠に心を温めることができないのだと。
血縁関係があるからといって、必ずしも彼が姉として認めてくれるわけではない!
彼らの間には、元々親しい縁など無かった。以前もそうだったし、これからもそうなのだろう!
だから塩浜市に戻ってからも、かつての弟に会おうとは思わなかった!
ただ、今日ここに来て、彼が撮影をしているところに出くわすとは思わなかった。
海外にいた三年間も、ネットで彼の情報を見ることはできた。
記憶を取り戻す前は、彼の情報を見ても、ただなぜか見覚えのある人という感じがするだけで、しかも彼を見るたびに、何か悲しい感情が湧いてきた。
そして記憶が戻った時、彼女はようやくその悲しみの正体が何なのか分かった!
「ママ!ママ!」小さな声が響き、心春の物思いを中断させた。
「どうしたの?」心春は言った。
「このお人形が欲しいの。いい?」小さな子は先ほど試してみた玩具を指さした。それは電動の人形で、子供の声の指示に従って簡単な対話ができるものだった。
「いいわよ。」心春は言った。「でも、このお人形を買ったら、他の場所で買い物をしましょうね?」
「どうして?」小さな子は不思議そうに言った。さっきまでママは、ここでたくさん買い物をすると言っていたのに。
「えっと、ここは...前の方に人が多すぎるから、もっと人の少ない場所を探して、そうすれば色んなものが見られるし、他の人に邪魔されないわ。」心春は適当な言い訳をした。
「うん。」小さな子は疑うことなく頷いた。
心春は支払いを済ませ、娘を連れてまずショッピングモールを出ようとした。結局、彼女は田中悠仁との再会など望んでいなかったのだから!
しかし、エスカレーターに向かって歩き出した時、ちょうど群衆もエスカレーターの方に押し寄せているのが見えた。スタッフが周りの見物人を制止しているのが見え、カメラは大人と子供が手をつないで歩く場面を撮影していた。
その背の高いシルエットが、心春の目を刺すように痛めつけた。
あれは...悠仁!