現場目撃者

田中悠仁は撮影中の現場を離れ、仁藤心春と一緒にエレベーターに乗り込み、その後レストランで涙を流しながら心春に土下座までしたのだ!

ここ数年で芸能界に現れた人気新人として、その日の出来事は、瞬く間にトレンド入りしてもおかしくない話題だった。

しかし不思議なことに、ネット上では関連する話題は一切上がらなかった。

これは温井卿介の仕業に違いなかったが、心春にとってはむしろ安堵の種だった。少なくとも彼女自身も注目を集めたくはなかったのだから。

そしてあの日の温井卿介の言葉を思い出すたび、心春の胸には言い表せない感情が湧き上がってくるのだった。

彼は言った……彼の人生は、彼女のせいで既に台無しになったのだと。

本当に彼女は彼の人生を台無しにしてしまったのだろうか?

なぜその言葉を聞いて、こんなにも胸が痛くて泣きたくなるのだろう?

もしかして彼に対してまだ何か感情が残っているのだろうか?

そんなはずない!彼女は心の中で自分に言い聞かせた。温井卿介に対する感情なんてもう無いはずだ。

今はただ彼に合わせているだけ。早く彼が自分に興味を失ってくれることを願って。

この時、心春は自分と田中悠仁との出会いのことは、ほとんど誰も知らないだろうと思っていた。

しかし彼女の知らないところで、予想もしなかった人物が、あの日ショッピングモールで田中悠仁が彼女を引っ張っている場面を目撃していたのだ。

島田書雅は清掃員の制服を着て、その日他人から入手した現場の携帯動画を見返していた。動画の中で、田中悠仁は心春の手を引いて何かを話している。

そして田中悠仁の表情には、明らかな哀願と苦痛が浮かんでいて、まるで心春に何かを懇願しているかのようだった。

「あら、まだその動画見てるの?」同僚が言った。「もう何回も見てるじゃない。田中悠仁のファンなの?でも不思議よね。あの日撮った田中悠仁の動画をネットにアップして、田中悠仁を見かけた自慢でもしようと思ったんだけど、この動画が何度アップしても失敗するのよ。おかしくない?それにあの日、みんなスマホで撮影してたのに、ネット上にはあの日の動画が一つも見つからないのよ。」

島田書雅は歯ぎしりした。それはつまり、誰かがメディアを掌握して、このニュースを流出させないようにしているということだ。

誰にそんな力があるというの?!