話している間に、温井卿介は仁藤心春を抱きかかえて宴会場に到着し、会場にいた人々の視線が一斉に二人に注がれた。
仁藤心春は気まずさを感じ、目立ちたくないと思えば思うほど、逆に目立ってしまうのだった。
しかし今となっては、自分に向けられる視線を厚かましく無視するしかなかった。
温井卿介は彼女をソファに座らせると、「足をマッサージしましょうか?」と尋ねた。
「……」彼女は言葉を失った。ここでマッサージするつもり?「いいえ、大丈夫です。もう…足はそれほど疲れていませんから」
「そうですか、では何か食べ物を持ってきましょうか?」と彼は言った。
「……はい」彼女は答えた。
温井卿介が立ち去ると、仁藤心春は一人でソファに座っていた。周りには彼女を見つめる人が大勢いて、その視線には明らかに好奇心が込められていたが、誰も実際に彼女に話しかけようとはしなかった。