仁藤心春はようやく気づいた。自分は温井卿介の仕事を邪魔してしまったのだ。そこで彼女は急いで言った。「すみません、お忙しいところだったなんて知りませんでした。外で待っていますから…」
彼女の言葉はまだ終わらないうちに、温井卿介に遮られた。
「いいんだ」温井卿介は立ち上がり、他の幹部たちに言った。「みんな先に出ていってくれ」
「はい」幹部たちは応じて、一列になって出ていった。
ただ、退室する際に、彼らの視線は思わず仁藤心春のほうをちらりと見ていった。
会社の幹部たちは皆知っていた。社長が三年間探し続けていた人が、ついに見つかったのだと!
そして今、この女性が現れた時、普段なら仕事中に邪魔されることを最も嫌う社長が、何の躊躇もなく進行中の重要な議題を終わらせたのだ。
この人が社長の心の中でどれほどの位置を占めているかが見て取れる。