香り

渡辺海辰は自分のボスが手に持って弄んでいる香り袋を見て、一言言った。「この香り袋は市場で売られているものとは少し違いますね。」

「そう、お姉さんが私にくれたんだ。」と温井卿介は言った。

なるほど、仁藤さんからのプレゼントか。だからボスがずっと宝物のように大事にしているわけだ。

「この香り袋、綺麗だと思うか?」と温井卿介は尋ねた。

こういう時は、たとえ綺麗でなくても綺麗だと言わなければならない!

それに、渡辺海辰はこの香り袋が厳密に言えば確かに素晴らしいと思っていた。「綺麗です。」と彼は答えた。

「中の香料も、お姉さんが特別に私のために調合してくれたもので、私だけが持っているんだ。」と温井卿介はさらに言った。

渡辺海辰は、いつも気分の変化が激しく、心を読むのが難しい大物が、今はまるで宝物を手に入れて必死に他人に自慢したがる子供のようだと感じた。

そしてその後、渡辺海辰だけでなく、温井グループの多くの社員たちも、自分たちの会長が常に香り袋を身につけ、時々それを取り出して弄んでいるのを目にするようになった。

そのため、最近は香り袋を持ち歩くのが流行っているのかと思い、わざわざネットで似たような香り袋を購入する人まで現れた。

数日後、ある会食の場で、温井卿介は秋山瑛真と出会った。

この二人はお互いに相手を良く思っていなかったが、このような場では避けられない出会いもある。今がまさにそうだった。

「温井卿介、なんて偶然だね、また会ったよ。」秋山瑛真は温井卿介の前に立ち、不機嫌そうに言った。

「お互いさまだ。」温井卿介は冷たく返した。「最近GGKの事業拡大がかなり激しいと聞いているが、多くの場合、やりすぎは良くない。自分の実力に見合わないものを得ようとすると、結局は何も得られなくなるかもしれないぞ。」

「そうかな?」秋山瑛真は冷笑した。「私が誰かに自由を与えると約束したなら、当然それを実現するためにあらゆる努力をする。少なくとも君のように、いつも人を後ろから監視させるようなことはしない。どうした?せっかく見つけた人が、油断すると消えてしまうのが怖いのか?」

前回心春に会った時、彼は心春の後ろの隠れた場所にボディーガードがついて監視しているのを発見した。

考えるまでもなく、それは温井卿介が派遣したものだった。