家族

仁藤心春と温井卿介はウェディングドレスとタキシードを試着するために衣装店に来ていた。つい最近まで自分は友人の結婚式のためにブライズメイドドレスを試着していたのに、今は花嫁のドレスを試着することになるなんて、心春の胸中には言葉にできない複雑な思いがあった。

「どのデザインが好き?」温井卿介はウェディングドレスのカタログを見ている心春に尋ねた。

彼女が手にしているカタログには、国内外の有名デザイナーがデザインしたウェディングドレスが載っていた。

「どれも素敵ね」彼女は答えた。

言い換えれば、特に気に入ったものはなかった。

彼女にとって、この結婚式はそもそも望んでいたものではなく、どのドレスを着ようと、実際のところ彼女にとっては何の違いもなかった。

「つまり、どれも気に入らないということだな」温井卿介は言い、そばにいるスタッフに向かって言った。「他のデザインを持ってきてください。なければ、デザイナーたちを呼んで、満足できるウェディングドレスをデザインしてもらいましょう」

「は、はい、すぐにデザイナーたちに連絡します」スタッフは急いで応じた。

花嫁が特に気に入ったデザイナーの作品がないので、当然、連絡するデザイナーは一人ではなくなった!

「そんなに面倒なことしなくていいわ、これが...結構好きよ!」心春は急いであるドレスを指さした。

温井卿介の視線が心春の指すドレスに向けられた。「これが好きなのか?」

心春はそこで気づいた。自分が適当に指さしたドレスは、体にフィットするタイプで、肩を露出し、胸元が強調され、ウエストとヒップがぴったりとしたデザインで、膝下からマーメイドラインで広がるスタイルだった。

このようなスタイルは、確かに彼女の普段の好みとは一致していなかったが、先ほど自分で指さしたものなので、今さら頭を振るしかなかった。

「うん、私...好きよ」心春は言った。「でも...デザイナーに少し修正してもらう必要があるわ」

「じゃあデザイナーとの面会を設定しよう。どう修正したいか直接伝えるといい」温井卿介は言った。

「わかったわ!」心春は応じた。

その後数日間、デザイナーが直接温井家の邸宅に来て、心春とウェディングドレスの修正について話し合い、ようやく修正案が決まった。