行かないで

手術当日、仁藤心春は手術室の外で緊張しながら待っていた。

温井家の人々も来ていたが、もちろん、心春とは違い、温井文海夫妻は温井卿介が本当に手術台で死んでくれることを願っていた。そうすれば温井家のすべてが彼らのものになるからだ!

もし温井朝岚が必死に阻止し、あらゆる防衛策を講じていなければ、温井文海はとっくに卑劣な手段で病院の人間を買収し、温井卿介を死なせていただろう!

「お前は馬鹿か、本当に温井卿介に生きていてほしいのか?」温井文海はかつて朝岚を憤慨して叱りつけた。

「彼は私のいとこよ、なぜ彼に生きていてほしくないの?」朝岚は言った。「それに、彼がこんな重傷を負ったのは、誘拐された子供を救うためだったのよ。私は彼を尊敬している!」

彼自身も誘拐されたことがあったが、その時は誰も彼を救いに来なかった!

かつて最も絶望的な時、彼もそんな人が現れることを切望していた。天から降りてきて、彼を守り、どんな危害からも守ってくれる人を。

当時、彼はそんな人を待ち続けたが現れなかった。

そして今、あの子供は、彼女のためにそこまでしてくれる人を待ち受けていた!

温井朝岚が温井卿介を死守し、温井澄蓮も朝岚側についたため、温井文海は手出しができなかった。

彼と妻は怒り心頭だったが、どうすることもできなかった!

今、手術室の外で、山本綾音は緊張している心春を慰めていた。「きっと大丈夫よ、万全の準備はできているし、医師も手術の成功率は75%だって言ってたでしょ?」

心春は苦笑した。そう、75%の成功率は、この種の手術では高い方だった。

しかし、まだ25%の失敗の可能性があるのではないか?

そして彼女は...本当に失敗を受け入れられるのだろうか?

これからもう二度とあの男性を見ることができず、彼が「お姉さん」と呼ぶ声を聞くことができないことを、本当に受け入れられるのだろうか?

時間は一分一秒と過ぎていき、心春は周囲のすべてがゆっくりと空虚になっていくように感じた。まるでこの世界に自分一人だけが残されたかのように、自分の心臓の鼓動だけが聞こえるかのように!

どれくらい時間が経ったのか分からないが、突然彼女の視界に閉じられていた手術室のドアが開き、医師が出てきた。

「手術は順調でした。破片は取り除きましたが、術後72時間は危険期です」と医師は言った。