第13章 信じるも信じないもあなたの勝手

夏目星澄は不自然に視線を避けた。霧島冬真に見つめていたことを気づかれたくなかったのだ。

恥ずかしいことこの上ない。

しかし、霧島冬真はそのまま見逃すつもりはないようだった。「こっちに来て、髪を乾かしてくれ」

夏目星澄は立ち上がり、習慣的に彼から渡されたドライヤーを受け取った。スイッチを入れようとした瞬間、何かがおかしいことに気づいた。

なぜ彼の言うことを素直に聞いて髪を乾かしているのだろう?

今は距離を置くべきなのに!

「何をぼんやりしている。早く乾かせよ」霧島冬真は少し苛立ちを見せた。

夏目星澄は胸が沈む思いで、ドライヤーを彼に返した。「自分で乾かして」

以前は、彼がお風呂から出てきたとき、タオルで適当に拭くだけで、全然乾いていなかった。風邪を引きやすかったのだ。

彼の健康を心配して、自分から髪を乾かすことを申し出たのだった。

彼も断らなかった。

そうしているうちに習慣になってしまった。

でも今は、二人の関係は、

霧島冬真は不機嫌そうに言った。「また何かあったのか」

料理も作ってくれない、髪も乾かしてくれない。

そんなにも彼との関係を切りたいのか?

夏目星澄は目を伏せ、冷たい声で言った。「私たち、少し距離を置いた方がいいと思う。お爺様とお婆様の前では演技をするけど、二人きりの時は互いに干渉しない方がいいわ」

「そうそう、あなたがお風呂に入っている時、梁川千瑠から電話があったわ。後で折り返した方がいいわよ」

彼女は霧島冬真に、こっそり電話を取って知らせなかったと思われたくなかった。

霧島冬真は梁川千瑠からの電話に興味を示さなかった。

夏目星澄とじっくり話し合う必要があると感じていた。

しかし、言葉を発する前に、彼の携帯電話が再び鳴った。

相手が何を言ったのか、霧島冬真の表情は次第に暗くなっていった。

電話を切った瞬間、彼の星澄への視線には鋭さが宿っていた。「電話で千瑠に何を言った?」

夏目星澄は彼の様子がおかしいことに気づいたが、事実を話した。「何も言ってないわ。ただお風呂に入っているから、後で電話すると伝えただけよ。どうしたの?」

「彼女が自殺を図った」

「え!」

夏目星澄は胸が締め付けられる思いだった。まさか、あの一言で自殺するなんて信じられない。

命を軽視しすぎではないか。

しかし霧島冬真の様子を見ると、彼女がたった二言しか言っていないとは信じていないようだった。

だが彼は何も言わず、服を着替え、車のキーを手に取り、急いで寝室を出て行った。

隣の部屋の霧島お爺様は物音を聞きつけ、上着を羽織って確認に来た。ちょうど霧島冬真が階下に向かうところだった。

何かがおかしいと感じ、すぐに声をかけた。「待ちなさい。こんな夜更けに、家で寝ないでどこへ行くつもりだ?」

霧島冬真は慌ただしい様子で答えた。「ちょっと用事があるんです。すぐに戻ります」

霧島お爺様は急いで階下に降り、霧島冬真の手首を掴み、険しい表情で言った。「どんな用事が夜中にあるというんだ。説明しない限り、行かせん」

「梁川千瑠が自殺を図ったんです。様子を見に行きます」

「彼女が自殺したところで、お前に何の関係がある。行ってはいけない」

霧島お爺様は梁川千瑠が好きではなかった。生きようが死のうが、彼には関係なかった。

ましてや、彼女のせいで真夜中に孫を困らせたくなかった。

「お爺様、人命に関わることです。後で説明します」霧島冬真は時間を無駄にしたくなく、霧島お爺様の制止を振り切って出ようとした。

霧島お爺様はそう簡単には行かせなかった。「どうしても行くというなら、星澄も一緒に連れて行きなさい」

そう言って階上に向かって声をかけた。「星澄、星澄、早く降りておいで。あの梁川千瑠が生きているか死んでいるか、一緒に見に行ってきなさい。死んでいたら後事を手伝い、生きていたらすぐに帰ってくるんだ。お婆様を心配させないように」

夏目星澄はすでに服を着替えていた。霧島お爺様に言われなくても、行くつもりだった。

梁川千瑠が本当に何かの理由で自殺したのか、確かめたかった。

理不尽にも「人殺し」の汚名を着せられるのは御免だった。

霧島お爺様の言葉は絶対だった。

霧島冬真は仕方なく夏目星澄を連れて病院へ向かった。

道中、二人とも黙っていた。

一方は何も聞かず、もう一方は何も説明しなかった。

病院に近づいた時、霧島冬真が突然口を開いた。「千瑠に会ったら、電話でのことをちゃんと説明してやってくれ。刺激するようなことは言うな」

夏目星澄は胸が詰まる思いだった。「なぜ私が説明しなければならないの?」

そもそも何も間違ったことはしていない。説明する必要などない。

霧島冬真は少しかすれた声で言った。「彼女は中度の鬱病なんだ。病人なんだから、いい事をしたと思って、なだめてやってくれ」

夏目星澄は冷ややかな笑みを浮かべた。「彼女が鬱病だからって、私に何の関係があるの?電話を取った時、あの二言しか言ってないわ。信じようが信じまいが勝手よ」

話している間に二人は病院に着いた。

霧島冬真は車を停め、振り向いて言った。「わかった。説明したくないなら、それでいい。車で待っていてくれ。私が様子を見てくる」

しかし夏目星澄は霧島冬真と一緒に車を降りた。「一緒に行くわ。本当に命に関わることになったら、私には弁明の余地もないでしょう!」