第25章 彼は誰？

霧島冬真は突然、自分が夏目星澄のことをあまり理解していないことに気づいた。

今になっても、彼女が離婚を望む理由さえわかっていない。

彼女が新しい仕事を始めたことすら知らなかった。

心の中に突然、喪失感が湧き上がってきた。

それは彼にとても不快な感覚をもたらした。

「夏目星澄、そんなに急いで私と離婚したいのか。仕事まで先に見つけておいたのか？」

夏目星澄は実は離婚したくなかったが、梁川千瑠の出現で、自分が彼の心の中で何の地位もないことを悟った。

彼から離婚を切り出されて強制的に去るくらいなら、自分から一方的な思いだけの結婚を終わらせた方がましだと思った。

しかし彼女には理解できなかった。なぜ霧島冬真は同意を渋るのか。

もう彼は梁川千瑠と...

そう考えると、夏目星澄の心臓がまた一度刺されるような痛みを感じた。

突然、霧島冬真の携帯が鳴り、彼は着信番号を見て少し躊躇した後、電話に出た。「千瑠...どうしたの。」

夏目星澄は梁川千瑠からの電話だと聞いた途端、すぐに立ち去ろうとした。

先ほどの会話もそこで終わりとなった。

しかし夏目星澄が数歩も歩かないうちに、背の高い人影が突然彼女の前に現れ、明るい笑顔で挨拶をした。「星澄、本当に君だったんだ。久しぶり！」

夏目星澄は目の前の清秀な顔立ちの男性を見て、少し驚いて「あなたは...坂口嘉元？」

彼女は大学時代の同級生にここで会うとは思ってもみなかった。

「医者に転職したの？」夏目星澄は坂口嘉元が白衣を着ているのを見て、この病院の医師だと思った。

坂口嘉元は首を振って説明した。「僕に医者なんてできないよ。ここで撮影があって、役柄が医者なんだ。さっき休憩中に君を見かけたから、挨拶しに来たんだ。」

「君は？病院に来たってことは、具合でも悪いの？」

「ううん、ただ腕を少し火傷しただけ。」

「そう？火傷は大きいのも小さいのもあるからね、見せて。」坂口嘉元はそう言って夏目星澄の手首を取り、注意深く見始めた。

夏目星澄は少し気まずく感じ、手を引っ込めようとした瞬間、強い力で引っ張られた。「触るな！」

坂口嘉元はその場で固まった。

夏目星澄も霧島冬真が突然現れて彼女を引っ張っていくとは思わなかった。

彼女は怒って問いただした。「何をするの！」