第63章 決して金のためではなかった

霧島冬真と夏目星澄の離婚のニュースは、すぐに上流社会の間で広まった。

彼らはこの件について話し合うためだけのグループを作ったほどだ。

「まさか、信じられないわ。夏目星澄って女、よくもまあ大胆にも霧島家のあの方と離婚しようだなんて!」

「この目で見てなかったら信じられなかったわ。霧島家の若奥様として公表されてからそう経ってないのに、もう離婚騒ぎよ。私たちの界隈でもかなりの衝撃だわ」

「ああもう、みんな知ってるのに私だけ何も知らないの。誰か天使のお姉様、これがどうしてなのか教えてくれない?」

「林田真澄の妹の林田瑶子が、お酒を飲み過ぎて暴れ出して、梁川千瑠に赤ワインをぶっかけたの。そこへ霧島様の奥様が来たってわけ」

「霧島様が梁川千瑠に謝罪するよう求めたけど、彼女が拒否して喧嘩になって、最後には離婚の話になったの。霧島様がどんな人か知ってるでしょう?彼女を甘やかすはずないわ。すぐに同意したのよ」

「その時の彼女の呆然とした顔ったら、あはははは」

「そういうことだったのね。この夏目星澄って本当にバカね。よくも霧島様を脅すなんて、死にたいのかしら!」

「でもちょっと待って、この林田瑶子がどうして突然梁川千瑠にお酒をかけたの?一体何があったの?」

「あの夜、霧島様と梁川千瑠が二人でゲームに負けて お酒を交わしていたのを林田瑶子が見たらしいわ。彼女は夏目星澄の親友でしょう?我慢できなくて、梁川千瑠を懲らしめたってわけ。場は大混乱だったわ」

「その後、夏目星澄が来て事情を知って、謝罪を拒否して離婚すると言い出して、結婚指輪まで霧島様に返したのよ!」

「こんな些細なことで離婚だなんて、この夏目星澄もバカね。霧島家は普通の家じゃないわ。お金も権力も、全てピラミッドの頂点にいるのよ。かつてどれだけ多くの人が霧島冬真との結婚を望んでも叶わなかったことか。彼女みたいな普通の女が運良く財閥の奥様になれたのに離婚だなんて、絶対におかしいわ!」

「そうも言えないわ。あの時、霧島冬真が事故に遭った時、梁川千瑠は逃げ出したでしょう。誰も結婚したがらなかったわ。夏目星澄は運が良かっただけよ。一年以上看病して、彼が良くなって、大きな得をしたってわけ!」

「何が得よ。梁川千瑠が戻ってきたら、夏目星澄なんて何の価値もないじゃない。この結婚、いずれ終わるに決まってたのよ!」