夏目星澄は平然とした表情で「うまくいってるわ」と答えた。
しかし、林田瑶子は気が重そうだった。「ごめんなさい、星澄。私があんなに衝動的に行動して、梁川千瑠の前であなたを困らせてしまって」
「お兄ちゃんから十数回も電話があって、LINEでも何十件もメッセージが来たの。全部私を責めるものだったわ。私、本当に間違ってたのかしら?」
夏目星澄は気にしない様子で首を振った。「あなたが悪いわけじゃないわ。私が霧島冬真と離婚したいと思っていたのは知ってるでしょう?あなたも賛成してくれてたじゃない」
林田瑶子は複雑な心境だった。
実は彼女は夏目星澄に離婚してほしくなかった。なぜなら、星澄が霧島冬真をどれほど愛しているか知っていたからだ。
彼のために、自尊心も仕事も犠牲にしてきた。
三年という月日があれば、石ころでさえも温まるはずだと思っていた。
しかし、霧島冬真は千年氷のような存在だった。
どれだけ温めても温まらない!
林田瑶子はそのことを思い出し、思わずため息をついた。「そうは言っても、本当に後悔しないの?」
夏目星澄はまた首を振った。「後悔しないわ」
霧島冬真を愛したことは後悔していない。
離婚することも。
おそらく彼らの関係は最初から間違いだったのだ。
今回は、手放すことを選んだ。彼に自由を返す。
そして自分自身も解放する。
夏目星澄は霧島冬真が翌日には離婚協議書を用意して署名を求めてくると思っていた。
しかし、午前中ずっと待っても連絡はなかった。
夏目星澄が状況を確認しようと電話をかけようとした時、霧島お婆様から電話がかかってきた。
「星澄や、今どこにいるの?」
「仕事中です。どうかしましたか、お婆様?」
「お婆様、星澄に会いたくてね。しばらく会ってないから、古い家に来てくれないかしら?」
「はい、仕事が終わったらすぐにお伺いします」
夏目星澄はお婆様との別れが辛かったが、霧島冬真との離婚は避けられない。霧島峰志からもプレッシャーをかけられており、もう引き延ばすことはできなかった。
お年寄りに真実を話す時が来たのだ。
その夜、夏目星澄が古い家に着いた時、霧島冬真はすでに中にいた。
彼女は不思議に思った。この男は一日中離婚協議書の署名について連絡してこなかった。