夏目星澄は即座に群衆の中に飛び込み、地面で暴れている夏目利道を引き上げた。「何を騒いでいるの?早く私と一緒に来て」
夏目利道は夏目星澄が来たのを見て、無関心に服の埃を払いながら言った。「ちょうど良かった。早く霧島冬真を呼んで降りてこさせろ。離婚と財産分与の話をしないといけない」
夏目星澄は彼を何度も睨みつけた。「黙って。これは私と霧島冬真の私事よ。人前でデタラメを言うのはやめなさい。早く私と一緒に来て」
しかし夏目利道は構わず大声で叫んだ。「行かない!結婚の時はケチケチして結納金たった100万円だけ。今度は離婚するのに一銭も出さないつもり?どうして得するのは向こうばかりなんだ。今日は金を受け取らない限り、絶対に帰らないぞ!」
夏目星澄の顔が青ざめた。
彼女は夏目利道が欲深い人間だということを知っていた。
だから当時、霧島冬真に嫁ぐ前に、自分の内緒金を使って霧島家からの結納金だと偽った。
その時はまだ、霧島家が百年の歴史を持つ財閥だとは知らなかった。
100万円の結納金をもらえるだけで喜び狂い、夏目星澄がどんな人間に嫁ぐのかなど全く気にしていなかった。
夏目家の方々が霧島冬真の身分を知った時には、もう金を要求するには遅すぎた。
これは夏目利道が今でも後悔していることだった。
だから今日それを持ち出したのは、新旧の借りを一緒に清算するつもりだった。
しかし夏目星澄は彼の好き勝手を許すわけにはいかず、最後にもう一度警告した。「もういい加減にして。何度も言ったでしょう。霧島冬真のお金は私とは何の関係もないの。ここで大声を出しても無駄よ。今すぐ私と一緒に来ることをお勧めするわ。さもないと何か起きても、私にはあなたを助けることはできないわ」
夏目利道も同様に夏目星澄を脅した。「この生意気な娘め。私と一緒に金を要求するか、それとも消えるかだ。邪魔をするな。どうせ時間はたっぷりある。ここで騒ぎ続けてやる。あいつがいつまで逃げられるか見てやろう!」
夏目星澄は夏目利道が改心する気配がないのを見て、もう説得する気も失せた。振り返って大谷希真に言った。「警察を呼んで」
この時点では警察だけがこの騒動を止められるだろう。
大谷希真は軽く頷き、携帯を取り出して警察に通報した。
夏目星澄はもう夏目利道の理不尽な振る舞いに関わりたくなく、歩き出した。