夏目星澄は苦しそうな表情で通りのベンチに座っていた。
霧島冬真からのLINEは、彼女にとって打撃であり、同時に解放でもあった。
今度こそ、本当に霧島冬真との関係を断ち切らなければならないことを、彼女は分かっていた。
メッセージを返信し、スマートフォンをバッグに戻すと、両手で膝を抱え、顔を埋めた。
できることなら、誰も知らない場所で新しい人生を始めたかった。
霧島冬真も、彼女を苦しめる夏目家の方々も、そして極限まで屈辱的な侮辱も、何もない場所で。
どれくらい時が経ったのか分からないが、夏目星澄は涙を拭い、区役所の前で待つ準備をした。
しかし立ち上がった途端、目の前が暗くなり、世界が回り始めた。
数秒後、意識を失った。
目が覚めた時、周りは消毒液の匂いで満ちていた。
病院だった。
頭を軽くさすりながら、スマートフォンで時間を確認した。
まずい、もう四時半だ。
今から急いで行っても、区役所はもう閉まっているはずだった。
そしてさらに不運なことに、霧島冬真はきっと怒っているだろう。
わざと来なかったと思われているに違いない。
夏目星澄は心の中でイライラしながら、ちょうど立ち上がろうとした時、看護師が入ってきた。「目が覚めましたか?具合はどうですか?他に不快な症状はありませんか?」
「ありません。私、どうしてここにいるんですか?」夏目星澄は不思議そうに尋ねた。
「低血糖で道端で倒れていたところを、親切な方が運んでくださいました。ご家族に連絡しましょうか?」看護師は話しながら夏目星澄に点滴を打った。
「必要ありません。だいぶ良くなりました。もう帰っていいですか?」
「点滴が終わってからの方がいいと思います。それと、会計も済ませていただけますか。」
「はい、分かりました。ありがとうございます。」
夏目星澄は外に出てからまた倒れるのが怖かったので、看護師の言葉に従い、大人しく点滴を終えてから病院を後にした。
しかし家に帰ってからも心配で、長い間迷った末、霧島冬真に電話をかけることにした。
電話は何度も鳴ったが誰も出なかった。夏目星澄は霧島冬真が怒っていて、わざと電話に出ないのだと思った。
切ろうとした瞬間、突然電話が繋がった。