夏目星澄は霧島冬真の口調がおかしいと感じた。
彼と梁川千瑠の仲を邪魔したから、怒っているのだろうか?
二秒ほど黙った後、まあいいか、今はそんなことを議論する時ではない、午後に区役所に行かなかったことについて直接説明することにした。
「実は電話したのは謝りたかったからなの。午後、急用が入って行けなくなってしまって、わざとじゃないの。」
霧島冬真は陰のこもった声で責めた。「夏目星澄、お前を一時間も待たせたんだぞ。」
夏目星澄は自分が悪いと分かっていたので、すぐに謝った。「ごめんなさい、ごめんなさい。本当にわざとじゃないの。突然のことで、私にも仕方がなくて...明日続きをやるのはどう?」
「私の時間は貴重だ。」
「じゃあ、明日朝9時に私が先に行って待ってるから、忙しい中でちょっとだけ時間を作ってきてくれればいいわ。」
「明日は時間がない。フランスに出張だ。」
夏目星澄は残念そうな顔をした。「え?また出張?」
「文句があるのか?」
夏目星澄は文句なんて言える立場ではなかった。「いいえ、全然。じゃあ出張から戻ってきてからにしましょう。」
社長の夫を持つとこういう不便さがあるのよね、離婚するのにも予約が必要なんて。
夏目星澄は言うべきことは全て言ったと思い、電話を切ろうとした。
しかし霧島冬真の声がまた聞こえてきた。「どんな香りの香水が好きだ。」
夏目星澄は少し戸惑った。「え?」
霧島冬真はイライラした様子で繰り返した。「フランスに出張に行くんだ。香水を一本買って帰ろうと思うが、要るか要らないか。」
夏目星澄は突然思い出した。霧島冬真が以前もフランスに出張した時、向こうの取引先から地元の特製香水を何本かもらって、帰ってきてからテーブルの上に放り投げていた。
夏目星澄はその香りがとても良かったので、自分で使っていた。
でも今の二人の関係では、彼からのプレゼントを受け取る資格なんてない。
「結構です。ありがとう。」
霧島冬真は鼻で冷たく笑い、電話を切った。
夏目星澄も携帯を脇に置き、お風呂に入って寝る準備をしようとした。
しかし服を着替えたばかりのところで、携帯が鳴り出した。
霧島冬真からの電話?
夏目星澄は、これは時間を変更するつもりかなと思った。
霧島冬真の冷たい声が突然聞こえてきた。「家に二日酔いの薬がなくなった。」