「これは私の自由だ。口を出す権利はない」霧島冬真はそう言い残すと、彼を一瞥もせずに立ち上がって真っすぐ出て行った。
霧島峰志は荒い息を吐きながら、怒りで死にそうな境地をさまよっていた。
ずっと黙っていた水野文香は、静かに食器を置き、優雅に口を拭うと、嘲笑うように言った。「あなたが梁川千瑠と結婚したいなら反対はしないわ。でも、その前提として一文無しで家を出ることね」
水野文香は当時、霧島峰志と結婚する際に婚前契約を交わしていた。
二人はビジネス上の政略結婚で、感情的な基盤はなく、すべては利益重視だった。
水野文香の霧島峰志に対する唯一の要求は、婚姻中の不倫は禁止、違反すれば一文無しで家を出ることだった。
霧島峰志はその時若気の至りで、会社のことしか頭になく、考えもせずに契約書にサインした。