夏目星澄は天地が真っ暗になるほど吐き続け、霧島冬真が来ていることにも全く気付いていなかった。
今は死にたいほど吐き気が酷く、本当に苦しかった。
顔には汗なのか涙なのか分からない液体が流れ、拭う間もなく気を失ってしまった。
看護師は夏目星澄の嘔吐がおさまってきたのを見て、そのまま病室へ移動させた。
しかし一般病室は環境が複雑で騒がしく、花井風真は夏目星澄の休息の妨げになることを心配した。
だが看護師に病室の変更を申し出る前に、看護師が戻ってきて「夏目さんには特別室が用意されています。こちらへどうぞ」と言った。
花井風真は入口に立っている男性を見て、彼が手配したことを理解し、拒否はしなかった。
夏目星澄がゆっくり休めるなら、それでよかった。
しかし夏目星澄が特別室に入るや否や、花井風真は霧島冬真を入口で止めた。「岡田社長、星澄は休息が必要です。入らないでください」
「彼女は俺の女だ。出て行くべきなのはお前の方だ」霧島冬真は花井風真が余計な口出しをしていると感じ、彼を強く押しのけて中に入った。
花井風真は追いかけて入り、厳しい表情で再び彼の前に立ちはだかった。「霧島社長、言葉を慎んでください。星澄はもうあなたと離婚しました。彼女はあなたの女性ではありません」
その言葉は棘のように霧島冬真の心を深く刺した。
彼はベッドで眠る夏目星澄を冷たく一瞥し、心配そうな表情の花井風真を見つめ、突然嘲笑うように笑った。「なるほど、そういうことか」
彼は夏目星澄が梁川千瑠を妬いて、怒って離婚したと本当に信じていたのだ!
なるほど、彼女が一銭も要求せず、早急に彼から逃れようとした理由が分かった。
すでに次の相手を見つけていたのだ。
花井風真は霧島冬真が何を笑っているのか分からなかったが、ただ夏目星澄の休息を妨げることを心配した。「病室代は後ほど返金させていただきます。ですので、お帰りください」
霧島冬真は冷たい視線で彼を一瞥し、それ以上留まることなく長い足で立ち去った。
外で待っていた緒方諒真は中に入るべきか迷っていた。もし中で喧嘩になったら困るからだ。
予想外に霧島冬真が早く出てきたので「どうして出てきたんですか?」と尋ねた。
霧島冬真は薄い唇を一文字に結び、何も言わなかった。