夏目星澄は数秒間呆然としたが、すぐに志田十月が冗談を言っているのだと思い、「十月、そんな冗談を言わないで。誤解されたら困るわ」と言った。
志田十月は真剣な様子で言った。「星澄さん、冗談じゃないんです。三浦昇汰のことは私がよく知っているんです。普段はすごくクールで、私がSNSに投稿しても『いいね』すらしてくれないのに、あなたとの写真を投稿してからは、わざわざ民宿まで遊びに来るようになったんです」
「しかも、いつもあなたのことばかり聞いてくるし、今日も映画のチケットを持ってきたなんて、絶対にあなたのことが好きなんです!」
夏目星澄は彼女の真剣な様子を見て、急に手の中の映画のチケットが熱く感じられた。
「十月、もし本当にそうだとしたら、このチケットを彼に返してくれない?」
しかし志田十月は受け取らなかった。「どうしてですか?星澄さん、今はシングルなんだから、三浦昇汰さんともっと接してみたらどうですか?彼、本当にいい人なんです」
夏目星澄は苦笑いして言った。「もういいわ。私みたいな離婚経験者が、若い人の人生を邪魔するべきじゃないわ」
しかも今はお腹にベビーがいるし、他の男性と感情的な関係を持つことなんてできない。
「星澄さん、そんなこと言わないでください。今どき離婚は恥ずかしいことじゃありません。それに三浦昇汰さんはあなたの状況をある程度知っているはずです。もし気にしているなら、あなたを追いかけたりしないはずです。チャンスを与えてみませんか?」志田十月は意図的に二人を引き合わせようとした。
夏目星澄はほとんど躊躇することなく断った。「あなたの気持ちはわかるわ。でも今は恋愛のことは考えたくないの」
志田十月は少し落ち込んだ様子で言った。「わかりました。恋愛は相思相愛でないとダメですものね。あなたがそう思うなら、三浦昇汰さんを説得してみます。あまり傷つかないといいんですが」
夏目星澄も人を傷つけたくはなかったが、恋愛は決して無理強いできないものだった。
霧島冬真との関係がそうだったように。
最後は離婚して、それぞれの道を歩むしかなかった。
翌日、志田十月は機会を見つけて映画のチケットを三浦昇汰に返した。
三浦昇汰は夏目星澄の気持ちを知り、確かに傷ついたが、諦めることはなく、むしろ再度誘いを掛けた。