夏目星澄はほとんど躊躇することなく、志田十月についていった。
車を少し走らせた後、志田十月は突然笑いながら尋ねた。「夏目さん、私が悪い人だったらどうしますか?もし騙されて連れ去られたりしたら?」
夏目星澄は窓の外を見ていた。彼女たちはすでに山道に入っていた。
彼女は志田十月の言葉と、車内で流れている馴染みの歌声を聞いて、穏やかに微笑んで言った。「そんなことはないわ。あなたの車で流れているのは全部私の歌だもの。本当のファンだってことがわかるわ。私はファンを信じているの」
それに、乗車前にネットで十月荘の宣伝ページを見て、志田十月と母親の写真も確認していた。
彼女の言葉が本当だと分かっていた。
「あはは、夏目さんの信頼、ありがとうございます」
「十月ちゃん、私の方が少し年上だから、よければ星澄さんって呼んでくれない?」
「もちろんです!」
志田十月は道中、夏目星澄に多くの風土や文化について話し、数日間滞在してもらえることを願っていた。
一時間後、ようやく目的地に到着した。
夏目星澄は車から降りた時、少し驚いた。
ここの環境は想像以上に美しかった。
夕陽が沈みかけ、山々に光が散りばめられ、温かな輝きを放っていた。
十月荘は陽ノ山の中腹に位置していた。
背後には青々とした山々が連なり、前方には深い渓谷が広がっていた。
民宿は山に寄り添うように建てられ、建物が調和よく配置されていた。
しかも新中国式の古風な建築様式で、非常に上品で古きよき趣が漂っていた。
夏目星澄は、こんな辺境の小さな町にこのような桃源郷が隠されているとは全く想像していなかった。
民宿のロビーに入ると、さらに目を見張った。
ほぼすべての家具が天然木の手作りで、心を落ち着かせる質素で優雅なデザインだった。
志田十月は急いで中に駆け込み、「お母さん、お母さん、早く来て!誰が来たか見て!」と呼びかけた。
すぐに水色のチャイナドレスを着た、清楚な容姿の女性が出てきた。
志田十月を見た時、顔には少し叱るような表情を浮かべていたが、目には愛情が溢れていた。「何度言ったことか、あなたは女の子なんだから、そんなに大声で叫んじゃダメよ。他のお客様の迷惑になるでしょう」
「ごめんなさい、お母さん。分かってます。ただ興奮しちゃって。ほら、誰が来たか見て!」