霧島冬真は車を路肩に停め、深い眼差しで夏目星澄を見つめながら、大谷希真に電話をかけた。
「大谷君、夏目さんに私たちがここに来た理由を説明してくれ」
大谷希真はほとんど躊躇することなく答えた。「三ヶ月前にプロジェクトマネージャーがここで観光開発を提案し、社内の手続きもほぼ完了して、現地視察と町長への事前通知が必要だったからです」
「本来なら霧島社長は別の都市に出張の予定でしたが、あいにく雷雨で陽ノ空港で足止めされ、急遽町に一泊することになりました。ところが町長が霧島社長の来訪を知り、会社からの視察だと思い込んで、どうしても二日間滞在してほしいと」
「ただ、夏目さんもここで...観光されているとは思いもよりませんでした」
観光開発プロジェクトは確かに実在したが、霧島社長自身が視察する必要はなかった。
ここに来た目的はただ一つ。
でも夏目星澄には知られてはいけない。
霧島社長のイメージを守らなければ。
妻を追いかけてここに来たなんて言えるはずがない......
夏目星澄は霧島冬真に会う前日、確かに雷雨があったことを思い出した。
大谷希真の説明を聞くと、本当に自分とは関係ないように思えた。
夏目星澄は気まずそうに口を開いた。「ご説明ありがとうございます、大谷補佐。わかりました」
霧島冬真は電話を切って片付けながら言った。「今でも、私があなたのために来たと思っているのかな?」
夏目星澄は自分が思い上がっていたことを知りながらも、霧島冬真の前で認めたくなかった。そこで話題を変えた。「私が考えすぎでした。それで、いつ帰られるんですか?」
霧島冬真は彼女を一瞥して、「私の行動をあなたに報告する必要があるのかな?」
夏目星澄はただ何気なく聞いただけだった。「必要ありません。聞かなかったことにします」
気まずさを避けるため、彼女は急いで車を降り、通りの小さな店で食べ物を買った。
そして隣の楽器店に気づいた。
ちょうど最近創作のインスピレーションが湧いていて、曲を書きたかったので、ギターがあれば最高だと思った。
夏目星澄は店に入り、しばらく選んだ後、一つを気に入った。「店長さん、このギターはいくらですか」
店主は夏目星澄を上から下まで見て答えた。「お嬢さん、目が高いですね。これは当店最高級のギターで、たったの1万8千円です」