夏目星澄は霧島冬真が気にかけているのは彼女のお腹の子供だけだと気づき、少し気持ちが沈んだ。
彼女はすぐに姿勢を正し、淡々とした表情で言った。「ご心配ありがとうございます、霧島社長。次回から気をつけて歩きます。おやすみなさい」
部屋に戻ると、彼女は和服を脱ぎ、シャワーを浴びて、心地よくベッドに横たわった。
やっと休めると思った。
霧島冬真に会わなければよかったのに。
彼がいつ去るのかもわからない。
翌朝。
夏目星澄が朝食を食べようとしていた時、志田十月に会い、彼女は嬉しそうに抱きついてきた。「星澄さん、良かったです!父の民宿が存続できることになりました!」
「どういうこと?」
「つまり、うちの民宿は取り壊されないだけでなく、事業を拡大することになったんです。霧島社長が山の裏の温泉には商業的価値があり、体験も良好で、推進する価値があると判断したそうです。もしかしたら、将来はうちが大きなホテルになるかもしれません!」
夏目星澄も一緒に喜んだ。「それは本当に良かったわね、おめでとう」
志田十月は親しげに彼女の腕に抱きついた。「へへ、星澄さん、信じられないかもしれませんが、民宿が存続できたのは、あなたのおかげだと思います」
夏目星澄は笑いながら志田十月の鼻をつついた。「どういうこと?」
志田十月は説明した。「あの霧島社長が、あなたがここの風土や文化をとてもよく宣伝してくれて、私たちの民宿の特色も褒めてくれたって。だから総合的に考えて、既存のものを残すだけでなく、投資して事業を拡大することになったんです」
夏目星澄はギターを買った夜のことを思い出した。二人が帰り道で話した時のことを。
彼女が霧島冬真に、もしここに観光開発の投資をするなら、十月荘を取り壊さないでほしいと頼んだ時のことを。
霧島冬真は彼女になぜかと尋ねた。
彼女はここに来てからの感想を話しただけだった。
しかし霧島冬真はその時何も言わず、ただ公私混同はできないと言っただけで、彼女の頼みは無駄だと。
まさか最後には彼が彼女の言葉を聞き入れてくれるとは。
夏目星澄もほっとした。これで志田十月と彼女の母親の、この間の世話を無駄にせずに済んだ。
午後になって、夏目星澄の電話が鳴った。