第161章 霧島社長は元気に生きているのに

夏目星澄は、うっかり勘違いしてしまったことに気づいた。

霧島冬真に嘲笑されないように、すぐに志田十月と一緒に立ち去った。

ちょうどその時、埃まみれの十月の母と出会った。

志田十月は喜びの表情で駆け寄り、「お母さん、どうしてこんなに早く帰ってきたの?」

朝倉澪乃は愛情を込めて志田十月の髪を撫でながら、「町に投資家が来て、観光開発や立ち退きの話があるって聞いたでしょう。そういうことは子供には手に負えないから、おばあちゃんの所の用事が済んだらすぐに帰ってきたのよ」

夏目星澄はその光景を羨ましく眺めていた。

志田十月は既に20歳だったが、母親の目にはまだ子供のように映っているのだ。

自分とは違う。

物心ついた時から、家事をし、弟妹の面倒を見てきた。

大学も中退しそうになった。

そして何か問題が起きても、いつも一人で対処し、相談する相手すらいなかった。

実の両親のことを思い出す。息子の借金を返すために、共謀して彼女を騙して家に連れ戻し、縛り上げて年配の男に差し出そうとした。

胸が痛くなる......

すぐに首を振って、不快な記憶を頭から追い出した。

「朝倉さん、まだ食事されてないでしょう。キッチンで何か作りましょうか」

朝倉澪乃は夏目星澄が妊娠していることを知っており、妊婦に料理を作らせるわけにはいかなかった。

「星澄、あなたの事情は聞いています。以前は特別な状況だとは知りませんでしたが、今は分かっているので、もうキッチンには入らせられません」

「大丈夫です。慣れていますから。家でも自分で料理を作っていますし」

朝倉澪乃は彼女を心配そうに見つめ、「それはダメよ。結局のところ、あなたは私たちの民宿のお客様なのだから、お客様に自分で料理を作らせるわけにはいきません。それに明日は大学生のグループが7、8人来るので、一度にそんなに多くの人数分の料理を一人で作るのは大変すぎます」

夏目星澄もそれはもっともだと思った。

観光客は地元の料理を楽しみにしているはずだし、自分はまだ上手く作れないので、以前の料理担当のおばさんに任せることにした。

昼食の時間。

民宿のスタッフ全員が集まって食事をしていた。

どういうわけか、話題は夏目星澄のことに及んでいった。

しかも全て妊娠に関することばかり。