地面に倒れた変態男は、二人が話している隙に逃げ出そうとした。
しかし、花井風真に見つかってしまった。
彼は即座にもう一発蹴りを入れた。「このクソ野郎!」
夏目星澄はすぐに地面から立ち上がり、花井風真の後ろに立って、恐る恐るその変態男を見つめた。
その男は浅黒い顔で、つり上がった目、赤ら顔で、悪相の塊だった。
花井風真に蹴られた痛みが強かったのか、お腹を押さえながら地面で転げ回っていた。
花井風真は警戒しながら男を見つめ、夏目星澄に警察に通報するよう指示した。
夏目星澄は急いで地面に落ちた携帯を拾い、警察に電話をかけた。
変態男は夏目星澄が通報したのを聞いて怯えたようで、痛みを我慢しながら後ろからスプリング式ナイフを取り出した。
「くそっ、お前らと一緒に死んでやる!」
そう言って花井風真に向かって突進してきた。
夏目星澄は心臓が締め付けられる思いで、「花井さん、気を付けて!」と叫んだ。
幸い花井風真は素早く反応し、夏目星澄を守りながら横に避けた。
しかし変態男は目が血走り、手にしたナイフを二人に向かって振り回し続けた。
外から物音を聞きつけた人が駆け込んできて、変態男を取り押さえるまでそれは続いた。
入ってきた人物は黒服で、体格がよく、ボディーガードのような風貌だった。
彼は自分のベルトで男を縛り、地面にあったタオルで口を塞いだ。
そして夏目星澄の前で頭を下げ、謝罪した。「申し訳ありません、若奥様。私の不注意で隙を突かれてしまい、本当に申し訳ございません!」
夏目星澄を若奥様と呼ぶのは霧島冬真の部下だけだった。
つまりこのボディーガードのような男性は、霧島冬真が彼女を守るために派遣した人物だったのだが、彼女はそれを知らなかった。
花井風真もそのことに気付いた。「お前は霧島の部下か?」
黒服の男は恥ずかしそうに頷いた。「はい、霧島社長から若奥様を密かに守るよう命じられていました。若奥様が温泉に入られる際、志田十月さんが事前に場所を確保していたので、中は安全だと思い込んで油断し、別の場所で一服していたのです...」
彼はタバコが吸いたくなり、数日間見張っていても不審な人物を見かけなかったため、こっそりタバコを吸いに行ったのだった。
数分程度なら夏目星澄に何も起こらないだろうと思っていた。