産婦人科病院。
今日は妊婦健診に来ている人が多く、夏目星澄は遅めの来院だった。
しかし、妊娠してまだ2ヶ月あまりで、お腹も目立たず、大きなお腹を抱えて疲れている他の妊婦たちとは違っていた。
周りを見渡すと、ちょうど一人の妊婦が席を立って行った。
「あそこに座って待ちましょう」
霧島冬真は眉をひそめ、この場所は環境が騒がしく、うるさくて、いるだけでイライラすると感じた。
彼はもう夏目星澄をここで検査させたくなかった。
夏目星澄の手を引いて外に向かおうとした。
夏目星澄は何が起きたのか分からず、「なぜ私を外に連れ出すの?」
霧島冬真は当然のように言った:「ここは環境が悪すぎる。大谷希真に最も早い便を手配させて、潮見市に戻って検査を受けよう」
「ただの妊婦健診よ、そんなに大げさにする必要はないわ。見てよ、他の妊婦さんたちもみんなここで検査を受けているのに、私だけ特別扱いされる必要はないわ」夏目星澄は自分が特別な存在だとは思っていなかった。
そう言って先ほどの場所に戻ったが、残念ながらその席は既に別の妊婦が座っていた。
今やここは満員という表現がぴったりだった。
小さな街なので、妊婦健診ができる病院はここだけで、しかも3日前から予約が必要だった。
仕方なく、彼女は立ったまま待つことにした。
霧島冬真は仕方なく夏目星澄の側に戻った。
しかし明らかに、この場所は彼の雰囲気とは不釣り合いだった。
周りの人々が彼らを見つめていた。
霧島冬真はあとどれくらい待つのか分からず、夏目星澄が立ち続けているのを見て辛そうだと感じ、周りを見渡した。
最後に妻と一緒に座っている男性の方へ歩いていった。
二人が何を話したのかは分からなかった。
霧島冬真が戻ってきた時、先ほどの男性が持っていた折りたたみ椅子を手に持っていた。
彼は椅子を開いて夏目星澄の後ろに置き、「座って」と言った。
夏目星澄は折りたたみ椅子を見て、霧島冬真を見上げ、「どこで手に入れたの?」
「買った」
「いくらで?」
「500元」
「いくら!」夏目星澄の声は思わず大きくなった。
この折りたたみ椅子は明らかに長年使用されており、中古でも売れないような代物で、500元どころか5元の価値もないものだった。
霧島冬真が500元も払ったなんて。