霧島冬真は手元の書類を処理した後、大谷希真を事務所に呼び出した。
「夏目星澄を迎えに行って、龍城レジデンスに連れて来い」
大谷希真は頷いて、「はい、霧島社長」と答えた。
夏目星澄は霧島冬真が仕事で忙しく、しばらくは構ってくれないだろうと思っていた。
ところが帰ってきた次の日に、大谷希真が訪ねてきて、霧島冬真の別荘に住むよう連れて行くと言い出した。
夏目星澄は不機嫌そうに眉をひそめ、「なぜ霧島冬真の家に引っ越さなければならないの?」
「それは霧島社長からは聞いていません。ただあなたをお迎えに行くように言われただけです」
「行かない」
夏目星澄は考えるまでもなく断った。
もう離婚したのに、どうして一緒に住むことができるだろうか。
本当に彼の言う通り、離婚しても同居するということなのか?
そんなのいやだ。
夏目星澄が拒否すると、大谷希真も強制することはできず、ただ困った表情を浮かべた。「若奥様、もしお越しにならないと、私は霧島社長に説明のしようがありません」
夏目星澄は今回は心を鬼にした。「説明することなんて何もないわ。私が行きたくないって伝えて。それと、もう若奥様って呼ばないでください。私と霧島冬真は離婚して3ヶ月近くになるわ。もう若奥様なんかじゃないの」
ここまで言われては、大谷希真も帰るしかなかった。
しかし彼が去って間もなく。
階下で日向ぼっこをしていた数人のおばあさんたちが突然噂話を始めた。
「見た?あの男性が乗ってきた車、すごく高そうよ。テレビで見たことあるわ。何億円もするんじゃないかしら」
「まあ、一台の車がそんなに高いなんて、驚きだわ」
「それどころじゃないわよ。昨日の夜も、すごく高級な車が2台も下に止まってたのよ。息子に聞いたら、その車種は一番安いのでも1000万円以上するんですって」
「まあまあ、おかしいわね。この古いマンションじゃ車を持ってる人も少ないのに、そんな高級車なんて。ここの住人じゃないでしょうね」
「知ってるわ。ここの住人じゃないの。誰かに会いに来てたのよ。それも女性に。25棟の8階に最近引っ越してきた人。何をしている人かわからないけど、数日住んでたかと思えば姿を消して、昨日の夜やっと戻ってきたと思ったら、その高級車が訪ねてきたの。しかも車から降りてきた男性が皆違うのよ!」