霧島冬真は十五分間もマッサージを続けてから、ゆっくりと手を放した。
夏目星澄は感謝の気持ちを込めて言った。「マッサージをしてくれてありがとう。意外と上手いのね。いつ覚えたの?」
霧島冬真は深い眼差しで彼女を見つめ、「車椅子に乗っていた頃、君が毎日マッサージをしてくれていたから、見て覚えたんだ」と答えた。
夏目星澄もすぐに思い出した。
あの頃の霧島冬真は本当に手がかかった。
彼女を追い払うために、色々と命令していた。
でも彼女は全て耐え、文句も言わずに彼の世話をした。
彼の両足の回復を少しでも良くするために。
漢方医からマッサージも習った。
霧島冬真はその時、無駄な努力だと言った。彼の両足には感覚がないのだから、マッサージしても意味がないと。
でも彼女はそうは思わず、毎日欠かさずマッサージを続けた。
その後、霧島冬真は突然悟ったかのように、リハビリを始めた。
医師も、彼女の努力のおかげで霧島冬真の足の筋肉が萎縮せず、普通の人と同じ状態を保てたから、リハビリの効果が倍増したと言っていた。
ただ、何年も経った今、霧島冬真が同じようにマッサージをしてくれるとは思わなかった。
でも、もしこれが彼女のためだけなら、どんなに素敵だろう……
霧島冬真は彼女が何を考えているのか分からず、疲れて眠くなったのだと思い、立ち上がって「もう遅いから、早く休んだ方がいい」と言った。
夏目星澄は何も言わず、ただ頷いた。
霧島冬真は去る前にもう一度言い添えた。「家にずっといたくないのは分かる。仕事に行きたい気持ちも理解できる。でも前提として、自分の体を大切にしなければならない」
「君は妊婦なんだ。過度な疲労は禁物だ。もし何か危険があって、間に合わなかったらどうする?」
夏目星澄はその言葉を聞いて、心臓が一瞬止まりそうになった。「私が外で撮影していることを知っていたの?」
彼が毎日忙しくて彼女のことを気にかける暇もなく、何をしているのかも知らないと思っていた。
霧島冬真は彼女を見て冷笑した。「運転手は君を送り迎えするだけだと思っているのか?」
あれは彼が密かに彼女を守るために配置したボディーガードでもあった。
夏目星澄は運転手に特に頼んでいたことを思い出した。撮影のことは霧島冬真に言わないでほしいと。