夏目星澄の出番はそれほど多くなかった。
通常一日の場合、半日の撮影で十分だった。
しかし、なぜかメイクを済ませてから2時間近く待っても、彼女の番が来なかった。
時間を間違えたのだろうか?
「青木さん、私の撮影時間を確認してもらえる?」
青木は鞄から撮影スケジュール表を取り出して確認した。「夏目先生、確認しましたが、あなたの撮影は1時間前に始まるはずでした。」
「時間は間違えていなかったようね。でも、なぜまだ私の番が来ないのかしら。何か問題が起きているのかもしれない。見に行ってみましょう」と夏目星澄は心配そうに外に向かった。
「夏目先生、動かないでください。こんな些細なことは私が確認してきます。すぐ戻ります」と青木尚之は自ら任務を引き受けて走り出した。
約5分後、青木尚之は戻ってきた。怒りの表情で言った。「夏目先生、分かりました。宮本恵里菜が急にシーンを追加したため、あなたの時間が潰されてしまったんです。」
「副監督の話では、おそらく夜の7時か8時頃まであなたの出番は来ないかもしれません。」
夏目星澄は眉をひそめ、困惑した様子で「なぜ急にシーンを追加するの?脚本はとっくに決まっていたはずでしょう?」
「夏目先生、この業界に入られたばかりだから、ご存じないかもしれませんが、撮影現場でのシーン追加は本当によくあることなんです。特に主演俳優たちは撮影中にシーンを変更することもあります。宮本恵里菜は脚本家も連れてきているそうです。彼女が自由にシーンを変更できるように...」
夏目星澄はシーンの追加や変更は監督の権限だと思っていたが、俳優もそうできるとは思わなかった。
「宮本恵里菜がそうするなら、他の人は意見を言わないの?監督も同意しているの?」
「監督が同意しなくても仕方がないんです。これは他の人には言わないでくださいね」と青木尚之は神秘的な表情で彼女を見つめた。
夏目星澄はゆっくりと頷いた。
青木尚之は小声で彼女の耳元で言った。「この作品の投資家は宮本恵里菜の後見人だそうです。彼女を主演に指名したんです。三浦監督も手の打ちようがありません。それに、玉竹仙女の役も最初から決まっていたそうですが、三浦監督が強く主張して、自分で人を探すと言い出し、そうでなければ撮影しないと言ったそうです。」