第200章 大物がやってくる

坂口嘉元も宮本恵里菜の様子がおかしいことに気づいていたが、それでも小声で制止した。「余計なことを言うな。NGは普通のことだ。君は夏目星澄の世話をすればいい。他のことは気にするな」

宮本恵里菜が何故夏目星澄を標的にしているにせよ。

彼女にとっては良いことではない。

しかも宮本恵里菜の仕返しを必ずするという性格を考えると、新人いじめの噂が広まって評判を落とすことになれば、夏目星澄を現場から追い出すことになりかねない。

そうなれば、彼は彼女に会うのが更に難しくなる。

副監督は夏目星澄と話し合い、気持ちを立て直すように言った。

夏目星澄も深く考えなかった。結局、初めての演技で、分からないことが多かったのだから。

宮本恵里菜が疑問を投げかけるのも理解できる。

夏目星澄はその後四、五回撮り直し、ようやくOKが出た。

しかし夏目星澄は自分の演技の一部がうまくいかなかったと感じ、もう一度撮り直したいと思った。

逆に宮本恵里菜は不機嫌になった。「今何時だと思ってるの?みんな撮影終了を待ってるのよ。あなたのために時間を無駄にする余裕なんてないわ」

夏目星澄は口を開きかけたが、言いかけて止めた。新人の彼女には発言権がなく、宮本恵里菜の指示に従うしかなかった。

坂口嘉元はその様子を見て、前に出て優しく励ました。「星澄、君の演技は良かったよ。最後のテイクは特に良かった。さあ、向こうで休もう」

夏目星澄は頷いた。「ありがとうございます。実は分からないところがあって、教えていただきたいんですが」

坂口嘉元は笑顔で答えた。「いいよ、歩きながら話そう」

傍らの宮本恵里菜は我慢できなくなり、すぐに二人の間に入って坂口嘉元の腕を掴み、親しげに言った。「嘉元さん、撮影後に夜食でも食べに行きませんか?この近くに美味しい焼き肉屋があるんです」

坂口嘉元は思わず夏目星澄の方を緊張した様子で見て、すぐに腕を引き離し、冷たく距離を置いて断った。「いや、最近は減量期間なんだ。肉は食べられない」

宮本恵里菜は諦めなかった。「じゃあ、私のキャンピングカーに作っておいたサラダがあるわ。後で持ってきましょうか」

坂口嘉元はまた断った。「申し訳ない、恵里菜。僕は七時以降は断食なんだ。好意は嬉しいけど。星澄と用事があるから、先に行くよ」