第201章 誰に向かって大声を出してるんだ?

夏目星澄は石田さんが来るかどうかなど気にもせず、早く撮影を終えて帰りたいだけだった。

そうでないと霧島冬真が心配して、何をするか分からない。

ちょうどその時、助監督が撮影開始を告げた。

宮本恵里菜と夏目星澄は向かい合って立っていた。

すぐに役になりきっていった。

石田鈴花は意識を失った緒方蒼一を見つめ、心配そうに言った。「玉竹仙女に蒼一の治療をお願いする件は、もう結構です。私が残って看病します。」

水野若菜は相変わらず冷たい表情で断った。「石田さん、申し訳ありませんが、ここは蒼穹山の秘地です。部外者は立ち入り禁止なので、お帰りいただきます。」

緒方蒼一を蒼穹山に連れ戻すことだけでも門規に違反していた。

しかも石田鈴花がどんな人物か分からないので、彼女一人に緒方蒼一の看病を任せる気にはなれなかった。

石田鈴花は突然興奮して言った。「でも蒼一はあなたたちが蒼穹山から追い出したのよ。あなたたちが彼を傷つけないとは限らないわ。他人に任せるなんて不安です。それに私と蒼一は心が通じ合っているの。彼は私なしでは生きていけないわ。」

それを聞いて、水野若菜は眉をひそめた。

緒方蒼一は無情道を修めているのに、どうして女性と心が通じ合うことがあり得るのか。

よく考える暇もなく、文庫閣の方向で火事が起きているのが見えた。

仕方なく、「では石田さん、お願いします」と言った。

そう言って彼女は剣に乗って去るはずだった。

つまりここで特殊効果が入るはずだった。

夏目星澄は軽くジャンプするだけでこのシーンは終わるはずだった。

しかし彼女が飛び上がった瞬間、足元で何かが引っかかり、後ろの水槽に向かって仰向けに倒れそうになった。

彼女が水槽に落ちそうになった時。

突然一つの影が駆け寄り、彼女を間一髪で引き留め、下半身だけが濡れる程度で済んだ。

そうでなければ、あんなに薄い生地の衣装が濡れてしまったら、透けて見えてしまうところだった。

夏目星澄は胸を撫で下ろしながらお腹を押さえた。

幸い影響はなかった。

ただ心臓の鼓動が普段より速くなっていた。

坂口嘉元は心配そうに彼女を見つめ、「星澄、大丈夫?」と尋ねた。

夏目星澄は顔色が少し青ざめて、「大丈夫よ。さっきは助けてくれてありがとう」と言った。