夏目星澄の人気は今や宮本恵里菜を超えそうなほどになっていた。
しかし、彼女自身は何も変わったとは感じておらず、周りの人々が以前より少し親切になっただけだと思っていた。
知らない人が見れば、彼女がこのドラマの主演女優だと思うほどだった。
夏目星澄は一心不乱に撮影に専念し、宮本恵里菜の目つきが日に日に恨めしくなっていることに全く気付いていなかった。
夏目星澄より数年長く演技をしており、去年も演技賞を受賞したことを盾に取って。
星澄に演技指導を始めた。
「あなた、木みたいだって言ってるの。そんなにじっと私を見つめられたら、演技する気も失せるわ。」
「もう少し心を込めてやってくれない?台詞を棒暗記するんじゃなくて、もっと臨機応変にやりなさい。」
夏目星澄は一瞬戸惑った。さっきは明らかに宮本恵里菜が勝手に台詞を変えたのに、しかもそれは筋が通っていなかったのに、どうやって応じればいいというのだろう?
でも宮本恵里菜は先輩なのだから、批判されるのも当然だと思い、申し訳ありませんと言って、やり直そうとした。
「申し訳ありません。次回は気をつけます。」
「次回って、いつも次回って言ってるじゃない。みんなの時間を無駄にしてるって分かってる?」
宮本恵里菜は言えば言うほど心の中で得意になっていった。
演技が下手というレッテルを夏目星澄にしっかりと貼り付けさえすれば、彼女は今後この業界で生きていけなくなるはずだ。
「私は夏目星澄さんの演じる玉竹仙女が好きだったのに、どうして宮本恵里菜さんにあんなにボロクソに言われるんだろう。」
「私たち素人には分からないのよ。宮本恵里菜さんは賞も取ってる人なんだから、夏目星澄に問題があるのを一目で見抜いたんでしょう。」
「彼女は三浦監督と特別な関係があるって聞いたわ。だから私たちの現場に突然入ってきたのよ。そんな人に演技力なんてあるわけないわ。」
「なるほど、歌手なのに急に演技を始めたのは、裏で監督と手を組んで、特別な手段を使ったってことね。」
「そうよね、この業界じゃ枕営業なんて当たり前だもの。」
夏目星澄は後ろで噂話をする人々の声を聞きながら、眉間のしわを深くしていった。
あまりにもひどいことを言いすぎだった。