夏目星澄は足音を聞いて、誰かが来るのを察知し、霧島冬真との関係を誤解されたくなかった。
すぐに自分の荷物を片付けて立ち去った。
霧島冬真は氷のように冷たい表情で夏目星澄の後ろ姿を見つめていた。
三浦和靖は気まずそうに、近づくべきかどうか迷っていた。
突然、彼の携帯電話が鳴り、霧島冬真の思考を中断させた。
三浦和靖は慌てて携帯をマナーモードにし、覚悟を決めて近づいた。「霧島社長、撮影現場では高城社長と林田社長がお待ちですが...」
霧島冬真は不機嫌そうに言った。「何を待つ必要がある。食事が済んだら帰れ。私を煩わせるな」
三浦和靖はその場で固まり、どうすればいいか分からなくなった。
霧島冬真はコートを手に取ってそのまま立ち去った。
三浦和靖はもう追いかけて聞く勇気がなかった。
しかし、先ほどの霧島冬真と夏目星澄の様子は、初対面とは思えないと感じた。直感的に、二人の関係は単純ではないと確信していた。
ただし、彼は何を言うべきで何を言うべきでないかをよく理解していた。
そこで戻って皆に、撮影は終了で、霧島社長は急用で先に帰ったと伝えた。
撮影終了の知らせに、全員が喜んだ。
隅にいた宮本恵里菜だけが、顔色が悪かった。
彼女は、霧島冬真の先ほどの行動が夏目星澄のための仕返しだったことに全く気付いていなかった。
この機会を利用して霧島冬真に近づきたいと思っていた。
だから水に浸かった後、体中が冷え切っていても、衣装車に戻って着替えなかった。
霧島冬真が戻ってくるのを待って、彼の前でアピールしたかったのだ。
結局、イケメンでお金持ちの男性は、誰でも好きになってしまうものだから。
しかし、いくら待っても影も形も見えず、がっかりしてしまった。
仕方なく、彼女は坂口嘉元に注目を向けることにした。
「嘉元さん、私さっき冷水に長く浸かっていたから、風邪を引いちゃったみたいで、少し熱があるの。解熱剤持ってない?」
坂口嘉元はすでにホテルに戻っていた。手元の解熱剤を見つめながら、冷たく二文字だけ返信した。「ない」
本来は夏目星澄に渡すつもりだったが、彼女と霧島冬真の関係を考えると、余計なことだと思い直した。
しかし、薬を捨ててしまうことはあっても、宮本恵里菜のような計算高い女には絶対に渡すつもりはなかった。