第216章 憎しみは全て夏目星澄に向けられた

梁川千瑠の兄、梁川永成のことを、彼は長い間誰からも聞いていなかった。

それは彼の幼い頃の記憶にだけ存在する人物だった。

そしてまさにこの人のために、彼はこれほど長い間、梁川千瑠の行動を許し続けてきたのだ。

ただ、彼は思いもしなかった。許し続けた末に、妻までも失うことになるとは。

「私は君の兄との約束を決して忘れていない。ただし、その約束の中に君と結婚するという言葉は一言もなかったはずだ。分かったか?」

霧島冬真の声は深い淵の氷のように冷たく、思わず聞く者を震えさせた。

梁川千瑠はその場に凍りついたように立ち尽くし、一言も発することができなかった。

我に返った時には、霧島冬真の姿はすでに遠ざかっていた。

梁川千瑠はずっと、兄との約束さえあれば、霧島冬真は自分の望むものを何でも与えてくれると思っていた。