夏目星澄が一曲歌い終わると、会場から大きな拍手が沸き起こった。
花井風真もその中にいた。
早川晴乃はその光景を見て歯ぎしりするほど腹が立ち、すぐにでも舞台に上がって夏目星澄の顔を引っ掻きたい衝動に駆られた。
花井風真は夏目星澄が舞台を降りるのを見て立ち上がろうとしたが、早川晴乃に引き止められた。「風真さん、どこに行くの?」
花井風真は急いでいたので、適当な言い訳をした。「ちょっとトイレに行ってくる。すぐ戻るから。」
早川晴乃は全く信じていなかった。「私も行きたいわ。一緒に行きましょう。」
花井風真は眉をひそめた。彼女と一緒では夏目星澄と話すことができない。
早川晴乃を振り切る方法を考えていると、携帯が鳴った。「ちょっと電話に出てくる。戻ってから話そう。」
早川晴乃は花井風真が夏目星澄のところに行くのではないかと心配で、すぐ後を追った。
しかし会場は暗すぎて、ハイヒールを履いた彼女には歩きづらかった。
あっという間に花井風真の姿は見えなくなった。
仕方なく、彼女は先に楽屋に行って夏目星澄を懲らしめることにした。
しかし彼女が知らないうちに、後ろからもう一人がこっそりと付いてきていた。
早川晴乃はスタッフの案内で、夏目星澄の楽屋を見つけた。
彼女は遠慮なく楽屋のドアを開け、入るなり夏目星澄の鼻先を指差して罵った。「夏目星澄、あなたって本当に厚かましい女ね。私が風真さんと婚約したっていうのに、まだここまで来て誘惑するなんて。あなたってどうしてそんなに下劣なの?私から男を奪おうとするなんて?」
夏目星澄は早川晴乃と花井風真がこのパーティーに来ているとは知らなかったし、誘惑なんてもってのほかだった。
彼女は早川晴乃の指を払いのけた。「私に指を向けないで。」
早川晴乃はまた手を上げた。「指を向けてやるわよ。さっき舞台で色気を振りまいて、私の風真さんを誘惑したあなたが悪いんでしょ!」
夏目星澄は呆れて笑ってしまった。
彼女は舞台で歌を歌っていただけで、ほとんど全身全霊を込めて歌っていた。抒情歌だったので、ほとんど動きもなかった。
それなのに早川晴乃に厚かましくも誹謗中傷されるとは。
でも彼女も簡単には負けない!
「あなたって本当に性根が腐ってるわね。いつも私に泥を塗りつけるばかりで、自分の問題を考えようともしない。」