第266章 私たちには未来がない

子供を失い、霧島冬真も苦しんでいた。

林田瑶子がどれだけ彼を罵り、殴っても、彼は一言も発しなかった。

ただ集中治療室にいる夏目星澄を心配そうに見つめ、早く目覚めることを願っていた。

最後に林田瑶子は感情が高ぶりすぎて気を失い、病室に運ばれた。

霧島冬真は引き続き集中治療室の前で見守り続けた。

五日後。

夏目星澄の体の数値は全て正常になり、集中治療室を出ることができた。

しかし、本人はまだ目覚めていなかった。

霧島冬真は着替える暇もなく、丸一週間彼女の看病を続けた。

ついに彼女は目を覚ました。

夏目星澄が目を開けると、真っ白な景色が広がり、時折消毒液の匂いが漂ってきた。

自分が病院にいることを悟った。

死ななかったのか。

命が強いものだ……

夏目星澄がそう感慨にふけていると、耳元で掠れた低い声が響いた。「星澄、目が覚めたんだね」

彼女はゆっくりと顔を向け、疲れ果てた表情の霧島冬真を見た。

夏目星澄は少し困惑して「なぜここにいるの?」と尋ねた。

梁川千瑠の側にいるべきではないのか。

生死の境目で、彼が真っ先に助けようとした人なのに。

「星澄、どこにも行かないよ。ここで君に付き添うんだ」霧島冬真は慎重に夏目星澄を見つめた。

彼女は今、紙のように青白く、脆弱な表情で、まるで壊れやすい芸術品のように、軽く触れただけで砕けてしまいそうだった。

夏目星澄は少し苛立たしげに眉をひそめた。

彼がここにいることが自分とベビーを不快にさせることを知らないのだろうか。

夏目星澄はそう考えると、無意識に自分のお腹に手を当てた。

しかし予想外にも、そこは恐ろしいほど平らだった。

夏目星澄の指が震え、もう一度強く触れてみた。

いない、子供がいない!

霧島冬真は夏目星澄の様子がおかしいのを見て、彼女が子供を失ったことに気付いたのを悟った。

「星澄、今目覚めたばかりだから、興奮してはダメだ!」

夏目星澄は真っ赤な目で霧島冬真を見つめ、「私の...私の子供は?」と尋ねた。

「申し訳ない、子供は助からなかった」霧島冬真は息を詰まらせ、彼女のその様子を見て、胸が刺されるような痛みを感じた。