夏目星澄は絶望のあまり泣いた。
しかし、自分の涙が海水と一体になっていることに気づいた。
おそらく数秒後には、完全に海底に沈むだろう。
実はこれでもいい。
結局、梁川千瑠の兄は霧島冬真の命の恩人だ。この事実は変えられない。
梁川千瑠もその切り札を使って、好き勝手に霧島冬真を彼女から奪っていける。
何度も何度も失望と苦しみを味わうくらいなら。
このまま全てを終わらせた方がいい。
唯一申し訳ないのはお腹の中のベビー。
まだ男の子か女の子かも分からない。
生まれる前から実の父親に見捨てられ、そして実の母親と共にこの冷たい海の中で死ぬことになるなんて……
霧島冬真は海に落ちた瞬間、真っ先に夏目星澄を助けようとした。
しかし海面には爆発後のヨットの残骸が散らばり、視界を遮っていた。