第265章 子供を失った

夏目星澄は絶望のあまり泣いた。

しかし、自分の涙が海水と一体になっていることに気づいた。

おそらく数秒後には、完全に海底に沈むだろう。

実はこれでもいい。

結局、梁川千瑠の兄は霧島冬真の命の恩人だ。この事実は変えられない。

梁川千瑠もその切り札を使って、好き勝手に霧島冬真を彼女から奪っていける。

何度も何度も失望と苦しみを味わうくらいなら。

このまま全てを終わらせた方がいい。

唯一申し訳ないのはお腹の中のベビー。

まだ男の子か女の子かも分からない。

生まれる前から実の父親に見捨てられ、そして実の母親と共にこの冷たい海の中で死ぬことになるなんて……

霧島冬真は海に落ちた瞬間、真っ先に夏目星澄を助けようとした。

しかし海面には爆発後のヨットの残骸が散らばり、視界を遮っていた。