第264章 1人しか選べない

霧島冬真は小舟を素早く彼らのヨットの側まで漕いでいった。

階段を見つけると、手際よく上っていった。

彼の最初の目は夏目星澄を探していた。

船首では二人の誘拐犯がそれぞれ銃を持ち、夏目星澄と梁川千瑠の頭に突きつけていた。

その中の一人、声が少し年老いて聞こえる男が口を開いた。「霧島社長、私が求めた物は持ってきましたか?」

霧島冬真は背後からジュエリーの入った袋を取り出し、「お前の欲しい宝石は全てここにある。人質を解放しろ」

東也さんは大きく笑い、「霧島社長は本当に太っ腹だな。10億円の宝石を、目もくれずに持ってきた。ただし、どちらを解放して欲しいのかな」

そう言って、彼は夏目星澄と梁川千瑠の口のテープを剥がした。

梁川千瑠はすぐに泣き出した。「冬真さん、怖いわ。お願い、助けて。私、死にたくない」