夏目星澄は病院で一日休んでから退院し、家にも帰らずに直接レコーディングスタジオへ向かった。
彼女には忙しくしなければならないことが山ほどあったのだ。
林田瑶子は霧島冬真が以前彼女に話した懸念を夏目星澄に伝えた。「星澄、急いで仕事に戻る必要はないわ。まずは家に帰って二日ほど休んだ方がいいわ。まだ警察は梁川千瑠を見つけていないし、もし彼女が暗がりに隠れていて、あなたを傷つけたらどうするの?」
夏目星澄は逆に林田瑶子を安心させた。「私のことを心配してくれているのは分かるわ。でも、一時的に逃げても永遠には逃げられないでしょう。もし一生梁川千瑠が見つからなかったら、私は一生家に隠れていなければならないの?それに、スタジオはたくさんの契約を結んでいるわ。私が行かなければ、違約金を大量に支払うことになるでしょう。そんな必要はないわ。」
実は彼女は梁川千瑠が来ることを望んでいた。彼女が姿を現すなら、もう一度刑務所に送り込んでやれるのだから。
しかし、林田瑶子を心配させないように、その考えは彼女に言えなかった。
林田瑶子はさらに説得を続けた。「星澄、お金のことは心配しないで。賠償金は私が払うから。あなたが危険な目に遭うよりはましよ。」
夏目星澄は我慢強く言った。「スタジオを設立して一ヶ月ちょっとで、もう違約金を払うことになるなんて、これが広まったら誰が私たちと仕事をしたがるでしょう。今回は私の言う通りにして。」
「でも...」林田瑶子は彼女の身が危険にさらされることを恐れていた。
夏目星澄は林田瑶子をレコーディングスタジオから押し出した。「もういいわ、でもはなしで。私は歌を録音しないといけないの。あなたも自分の仕事に行ってちょうだい。」
林田瑶子は少し困惑したが、霧島冬真が密かに人を派遣して彼女を守ることを思い出し、諦めた。
霧島冬真の方も、常に人員を配置して梁川千瑠の居場所を調査していた。
多額の報奨金をかけてネット上で懸賞をかけることも厭わなかった。
小野芙実も霧島冬真からのプレッシャーを感じ、軽々しく動くことはできなかった。
ただ、まずは高梨菜々という女性を探すように人を派遣した。
彼女を見つけた時、彼女はバーでクリーニングスタッフとしてトイレ掃除をしていた。