花井風真は眉をひそめ、ここから逃げ出す方法を必死に考えていた。
正面玄関から出るのは不可能だし、飛び降りるのも無理だ。自分は危険を顧みなくてもいいが、夏目星澄はそうはいかない。
突然、彼の視線が近くのテーブルの上のハサミに向けられた。
それは彼が先ほど傷の手当てに使ったものだ。もしハサミを手に入れて、自分の命を人質に取れば、彼らは夏目星澄を見逃してくれるかもしれない。
今となっては、他に方法がない。
花井風真が行動を起こそうとした時、ボディーガードの一人が彼の意図を察知し、素早く彼の手を押さえつけた。「風真様、何をするつもりですか?」
ボディーガードのリーダーが重々しく言った。「風真様は大人しく私たちについて来る気がないようですね。申し訳ありませんが、お二人とも縛らせていただきます。」
ボディーガードの目的は明白で、まず夏目星澄を縛れば、花井風真は自然と従順になるはずだった。
しかし彼が手を出そうとした時、背後で格闘の音が響き、その後悲鳴が上がった。
続いて、夏目星澄の前に伸ばした彼の手は、飛んできた黒い携帯電話に打ち落とされた。
そして男の低く冷たい怒声が響いた。「誰が彼女に手を出そうとしているんだ!」
夏目星澄はすぐに霧島冬真の声だと分かった。
案の定、次の瞬間、彼は目の前に現れた。
なぜ彼がここにいるのか、そしてどうやって彼女がここにいることを知ったのか。
夏目星澄は確かに少し怖かった。以前梁川千瑠に二度も誘拐されたトラウマが残っていたからだ。
しかし霧島冬真の出現によって、なぜか安心感を覚えた。
だが彼の様子はあまり良くなく、顔色が異常に青白かった。
夏目星澄の心の中の感情は一気に複雑になった。
花井風真はさらに体が硬直した。霧島冬真が来たのだ。
自分に夏目星澄を守る力がない時に、彼は救世主のように、強く威厳のある姿で彼らの前に現れた。
霧島冬真の後ろには大谷希真と7、8人のボディーガードが続いており、一行は厳しい表情で、冷酷な態度を見せていた。
部屋のボディーガードのリーダーも当然霧島冬真を認識しており、彼の後ろにいるボディーガードたちが全て特殊部隊の退役した精鋭だということも知っていた。
だからこそ、入り口で見張っていた彼らの仲間があっさりと倒されたのだ。